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「異種格闘技」戦に打って出る覚悟、決断、戦略

海外M&A成功の条件(2)慧眼、準備、そして猛獣

情報・テキスト
サントリーは、いきなりビームの大型買収に打って出たのではなかった。実は1980年代から小口、中口のM&Aを行なって、経験と人材を蓄積してきたのである。サントリーがこのビーム買収を「グローバル化のための最後のチケット」と位置付けて、大きな借金を背負う決断ができた背景には、それらの経験の積み重ねがあった。さらに、問題点をあらかじめ洞察し、多文化で育った猛獣を招き入れる決断まで行なったのだ。(全5話中第2話)
※インタビュアー:神藏孝之(10MTVオピニオン論説主幹)
時間:08:40
収録日:2019/07/02
追加日:2019/09/10
≪全文≫

●「グローバル化のための最後のチケット」を周到に手に入れる


神藏 (猛獣になりうる能力は)育てて育つものではなく、もともとそういう才能を持っている人が、自分でそれを磨いていく。その過程で戦って勝てば、猛獣に近づくという図式ではないでしょうか。

谷口 そうですね。だから猛獣を育成するのは、非常に難しいのではないでしょうか。異種格闘技みたいなもので、柔道を練習してうまくなって黒帯になるといったレベルの話ではない。ケンカが強い人の中には、ボクシングがうまい人より、もっとケンカが強い人がいるかもしれません。そういうことだと思うのです。

神藏 逆の意味で考えれば、買収するまでサントリーは130年近くやってきて、非常に安泰な会社だったところでですね、普通にのんびり暮らしていた社員たちからすれば、結構「とんでもないことをやってくれた」という感じでしょう。

 しかも当時のマーケットバリューで考えると、おそらく2倍弱ぐらいの金額で買っています。にもかかわらず、それを成功物語に仕立てあげてしまう。その新浪さんという猛獣を、なかなか自分の家に入れないですよね。

谷口 そうですよね。

神藏 嫌ですからね。すでに儲かっていて、うまくいっている企業は、そんな危ないことを普通はしません。彼が入ってきた過程で、ものすごい軋轢(あつれき)があったはずです。その軋轢を一方で抑えながら、一方で(ビームCEOの)マット・シャトックにも立ち向かっていく。相当タフな精神力と知力がないとできないですよね。

谷口 なかなか難しいでしょうね。やはり(サントリーの)佐治信忠会長が新浪社長を連れてこられた慧眼(けいがん)、目利きが素晴らしいと思います。

神藏 しかも、それを押し通すだけの力がある。普通オーナーであっても、なかなか、みんなが嫌がることはやりきれません。佐治さんはビームを買うことによって大借金を背負い、さらにそれを運営するために新浪さんというある種の猛獣、異種を連れてきた。この2つのことを、軋轢があるにもかかわらず、やり抜いた。すごい意志力だと思います。

谷口「オーナーの胆力」ということだと思います。オーナーだからといって、誰でも新浪社長みたいな素晴らしい猛獣を見つけ、連れて来られるわけではありません。サントリーがこのビーム買収を「グローバル化のための最後のチケット」と位置付けていたことが大きいように思います。

 需要の面で見たとき、「山崎」や「白州」といったウイスキーだけでは供給が足らない。ハイボールというものを文化として世界に発信していくうえで、ビームが必要である。そういう位置付けの中で、やはり、われわれはやらなければならないと考えた。今までうまくいっていたけれど、あえてここでストレッチをかけて勝負する。そういった大胆な意思決定があったからこそ、できたのではないでしょうか。

神藏 企業というのは緊張感を与え続けないと、成長しないのですね。

谷口 特に大企業になればなるほど、そうした緊張感は失われやすいと思います。ルーティン仕事を回していればいいのですから、そこから誰も離れようとはしなくなります。そこそこお金をもらい、そこそこの仕事をしていればいい。一つ変えようとすれば、全部をいじらなければならなくなるから、やりたくない。それならば家畜でいいと考える。それが今までの日本の企業の大半だったように思います。

 そこであえて劇薬を使って、「グローバル化のチケット」という名目でビームを買収した。

 それはオーナーの胆力というところのように思います。


●小口・中口のM&Aで経験を積み重ねてきたサントリー


神藏 1985年からウイスキー不況で、原酒をずっと作らずにいた。そのため今これだけジャパニーズスコッチブームになっても、「山崎」もなければ「白州」もない。原酒がないという状況の中で、それを含めて逆転するような策を打つ。すごいやり方です。

谷口 それをやっていくためには市場開拓も必要でしょうし、何より先ほどのお話の中で、佐治会長が新浪社長を連れてこられた。これから買収が必要なんだ、と意思決定したこともそうです。

 それから、ダイナミック・ケイパビリティという話をするのであれば、いままで買収を準備していた、という節があるように思います。1983年にはフランス・ボルドーのシャトー・ラグランジュを買収し、その後もフランスやドイツやアメリカなどの企業を買収しながら、小口・中口のM&Aをつなげていって、オランジーナ・シュウェップス・グループの買収もあり、そのうえでビームを買収したわけです。

 小さいところから始めてM&Aの準備をして、大きいところに行く。それで成功している企業というと、あとはJTやアサヒビールがあります。逆に失敗している例としてキリンなど...
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