●「グローバル化のための最後のチケット」を周到に手に入れる
神藏 (猛獣になりうる能力は)育てて育つものではなく、もともとそういう才能を持っている人が、自分でそれを磨いていく。その過程で戦って勝てば、猛獣に近づくという図式ではないでしょうか。
谷口 そうですね。だから猛獣を育成するのは、非常に難しいのではないでしょうか。異種格闘技みたいなもので、柔道を練習してうまくなって黒帯になるといったレベルの話ではない。ケンカが強い人の中には、ボクシングがうまい人より、もっとケンカが強い人がいるかもしれません。そういうことだと思うのです。
神藏 逆の意味で考えれば、買収するまでサントリーは130年近くやってきて、非常に安泰な会社だったところでですね、普通にのんびり暮らしていた社員たちからすれば、結構「とんでもないことをやってくれた」という感じでしょう。
しかも当時のマーケットバリューで考えると、おそらく2倍弱ぐらいの金額で買っています。にもかかわらず、それを成功物語に仕立てあげてしまう。その新浪さんという猛獣を、なかなか自分の家に入れないですよね。
谷口 そうですよね。
神藏 嫌ですからね。すでに儲かっていて、うまくいっている企業は、そんな危ないことを普通はしません。彼が入ってきた過程で、ものすごい軋轢(あつれき)があったはずです。その軋轢を一方で抑えながら、一方で(ビームCEOの)マット・シャトックにも立ち向かっていく。相当タフな精神力と知力がないとできないですよね。
谷口 なかなか難しいでしょうね。やはり(サントリーの)佐治信忠会長が新浪社長を連れてこられた慧眼(けいがん)、目利きが素晴らしいと思います。
神藏 しかも、それを押し通すだけの力がある。普通オーナーであっても、なかなか、みんなが嫌がることはやりきれません。佐治さんはビームを買うことによって大借金を背負い、さらにそれを運営するために新浪さんというある種の猛獣、異種を連れてきた。この2つのことを、軋轢があるにもかかわらず、やり抜いた。すごい意志力だと思います。
谷口「オーナーの胆力」ということだと思います。オーナーだからといって、誰でも新浪社長みたいな素晴らしい猛獣を見つけ、連れて来られるわけではありません。サントリーがこのビーム買収を「グローバル化のための最後のチケット」と位置付けていたこ...