●プロティアン・キャリアと「キャリア自律」
―― 皆様、こんにちは。本日は、田中研之輔先生に、「プロティアン・キャリア」についてお話をいただきたいと思っております。田中先生、どうぞよろしくお願いいたします。
田中 はい。よろしくお願いいたします。
―― いきなりの質問です。今回は「プロティアン・キャリア」ということで、「キャリア」とついているのでキャリア論だと思いますが、どういうキャリア論なのですか。
田中 はい。これは分かりやすくいうと、われわれ働くビジネスパーソン一人一人の可能性を最大化させるために考えられている「キャリア自律」という考え方の、最先端のキャリア知見になります。
―― 「キャリア自律」というと何でしょうか。
田中 「キャリア自律」は、変化の時代である今注目されている概念です。一人一人が自ら主体的にキャリア形成をしていくためには、自律することによって個人と組織の関係性をよりよいものとしてキャリア形成していこうという考え方になります。
―― これまでの歴史の中にはいろいろなキャリア論があったと思うのですが、今、「プロティアン・キャリア」というキャリア論が出てくる必然性、あるいは必要性はどこにあるのでしょうか。
田中 これについては、今は本当にキャリアをめぐる歴史的変革期だと捉えています。
●組織内キャリアにおける三つの課題
田中 今、スライドをお見せしますが、皆さんの働かれている企業の中で、かなりの確率で当てはまるのではないかという三つの課題があります。
まず、ファーストキャリア形成期。大学を出ておよそ10年弱ぐらいの若手の社員を見てみると、これからのキャリアをどのように形成していったらいいか分からない(「不透明なキャリア展望」と私は呼んでいますが)、キャリアが見えにくい状態があります。
次に、私ぐらいの年代、ミドルシニアのキャリア形成期になると、今度は働いている組織との関係ですね。私も大学で働いていますが、例えばその大学に雇われているということにおいて組織に依存していくような、「組織内キャリア依存」が生まれやすくなります。
もう少し先輩社員になると何が起きるか。ポストオフ後、あるいは定年を見据える頃になると、モチベーションが下がってしまう傾向が強くあります。この三つの課題をなんとか解決していかなければいけないと考えていて、それが「キャリア自律」につながります。
キャリア自律について歴史的に見ていくうえで、今お伝えしたような組織の中での昇進・昇格によりそこでキャリアを形成していくことを、われわれは「組織内キャリア」と呼んでいます。
この組織内キャリアで全てがうまくいっていればいいのですが、日本の企業を見ると、この30年間というもの、なかなかそれほどグロース(成長)できていません。では、企業が思うように伸びてきていないことの問題はどこにあるかというと、やはり一人一人がキャリアを最大化できていないことが原因なのではないでしょうか。
だから、組織内キャリアから自律型キャリアへトランスフォーメーションしていきましょうということを、われわれは考えています。
●組織内キャリアから自律型キャリアへ
―― 今、キーワードとして「自律」という言葉が出てきましたが、この30年を考えると、そもそも昔の日本企業では、例えば終身雇用などがメインになっていました。一概にはいえないものの、そういう捉え方の中でのキャリア形成は、単純に考えると新入社員で入って、係長、課長、部長、うまくいけば役員になるような筋道でした。この30年で、それがどのように変わってきたというイメージですか。
田中 日本型雇用をめぐっては、今言ってくださったように、「終身雇用」「年功序列」「企業別組合」が三種の神器といわれてきました。ここから徐々に、いろいろなところへのひずみが出てきたのだと捉えています。
例えば終身雇用のもと、長く最後まで働ければいいのか、生涯現役であればいいのか。キャリアフェーズを考えると、やはりやりがいや働きがい、生きがいを感じながら高いパフォーマンスを維持しなければ、本人にとっても組織にとってもよくない。そのため、終身雇用モデルに対する疑問が出ています。
あるいは年功序列。エンジニアリングやプログラミングができるような若手のエースが入ってきたとしても、組織の中では、まだまだ大きな仕事やプロジェクトは任せられないということになる。それは、企業の生産性や競争力に対するブレーキになっていると考えられます。ですので、こうした終身雇用や年功序列についても、もう少し開いていこうと考えています。
●2019年の歴史的転換と変幻自在な「プロティアン」
田中 歴史的に振り...
(田中研之輔著、日経BP)