●キャリア戦略を中心とするPDCAサイクル
―― これはお話を聞けば聞くほど、多くの方が「あとは悠々自適で」と考えがちになる役職定年や定年間際の段階からが、むしろチャレンジをしていくと、人生100年時代が全く違った景色に見えてきますね。
田中 全然違った景色になると思います。そのために、このスライドも非常に重要なメッセージになるかと思います。皆さんのど真ん中に「経営戦略」や「事業戦略」ではなく、皆さん自身のこれからの「キャリア戦略」を描いてください、としました。
ビジネス・パーソンであれば、戦略的思考の訓練は結構できています。それにもかかわらず、自分のことになると悩む。自分のことになると「何もできない」と言いがちですが、経営でも「やってみて、いろいろなリアクションをして、失敗であれば撤退する」わけなので、納得されます。そのようにPDCAを回し続け、A/Bテストを回し続けることが非常に重要です。
キャリアも同じです。キャリア資本という考え方を手に入れた皆さんは今日から何ができるかというと、新しいチャレンジをしたことは資本になっているわけなので、何の失敗でもない。だから、キャリア戦略を進めて、働き方と生き方のバランスを整え、皆さん自身が成長する。それは、もう年齢を問いません。
その結果、私は「生物学的年齢ではジャッジしない」と決めるようになりました。例えば定年が65歳で一括定年というのはおかしいと思っています。そういうことに賛同する企業などは、「生物学的年齢における一律定年は、新卒一括採用と同様におかしい」と考え、定年廃止を謳うようになったところもあります。
今後はだんだんそのようになっていくと思いますが、大切なのは(生物学的年齢よりも)むしろ「キャリアエイジ」といって、自分たちのキャリア形成における年齢やキャリア形成におけるチャレンジのステージです。仕事のキャリアのサイクルと、家庭やプライベートのサイクルをデザインしていこうということです。
これをいきなりやりましょうというのは、なかなか難しいと思います。私の場合、先ほどのキャリア資本の中長期計画と、今の目の前のキャリア戦略の両方を2週間に1回、10分かけて自分でつくってみます。これをやっているから、ぶれないで働くことができると思っています。
●企業現場とアカデミックをつなぐプロティアン・キャリア
―― 今のお話では、資本は今までの資本に足すこともできるし合わせ技一本で組み上げることもできる。このあたりの自由さが印象的でした。それでは、先生が取り組まれているプロティアンの具体例として、どのようなところまでいっているかということをぜひ教えていただければと思います。
田中 私がアカデミシャンとして非常に大切にしているのは、アカデミックの理論的知見や包括的な捉え方を机上の空論にしたくないということです。ですので、企業顧問などもさせていただきながら、企業現場とアカデミックをつなぐ形で活動しています。まさにこれが、今求められている産学連携だと思うのですが、それを今プロティアン・キャリアで実践しています。
今日の対談でお伝えしてきましたが、プロテイン・キャリアに欠かせないのが「キャリア・トランスフォーメーション」です。そのためには、まず皆さんなりの強みを戦略的に徹底的に磨いていきましょう。そして、今回の話にあったように、キャリアを複層的に、ポートフォリオとして中長期分散型で自己投資して増やしていけるキャリアレバレッジに取り組む。これは年齢も性別も問わないし、今までの仕事やこれからの仕事も全く問わないので、やはりやっていったほうがいいと思います。
私は、率直にいうと、プロティアン型のキャリア形成をしていく人と組織内キャリア型の人で、これからはかなりキャリアの二極化が激しく起こると思います。
プロティアン型のキャリア形成というのは皆さんの意思でできます。それに対して大きなコストがかかるわけでもありません。これからの新習慣として、日頃からのキャリア形成のヒントにしていっていただきたいと思います。つまり、皆さん自身がキャリア開発をしながら起こす行動変容が、関わり合う人や組織をリードしていくと考えてください。
●キャリアオーナーシップとCXに取り組む先駆的企業群
田中 今、どこまでやっているかということでいうと、経営戦略とキャリア戦略と事業戦略の三つを見取り図に据え、各社での取り組みが進んでいます。私の場合、2020年度で200社ぐらい入っています。
大きなところについて、この後のスライドでご紹介しますが、常日頃からキャリアを診断...