●「二つのX」を駆動させる要因としてプロティアンがある
―― 田中先生、今やまさにプロティアン・キャリアというものが必要な時代背景になりました。前回は、そもそもそれがどういうものかという簡単なご説明をいただきました。今回は改めて、それがなぜ必要なのかというところをぜひお聞きしたいと思います。
田中 はい。今の時代状況として皆さんと確認していきたいことがあります。それを私は「二つのX」と呼んでいますが、「X」とはトランスフォーメーションです。
DXは「デジタルトランスフォーメーション」で、皆さんがご存じのように、企業の中でデジタルツールを使いながら、働き方や生き方をよりよいものにしていくことです。これは日々、PDCAを回してチャレンジに取り組まれていると思います。
「DXがうまくいかない」「DXでは、どこか思うようにいかない」という声も聞こえます。それらをヒアリングしていって、どこでブレーキがかかっているかというと、推進する部隊がいない、人がいないのです。だから、ポイントは何かというと、DXをうまく円滑にグロースさせる人が必要だということです。
それを考えると、スライドの右に書いてあるCX(キャリア・トランスフォーメーション)が欠かせません。このキャリア・トランスフォーメーションというのは、組織内キャリアから自律型キャリアへ、働く人の一人一人を変容させていこうということです。
ですので、プロティアン・キャリアについて、私はただアカデミックな知見としてこれを覚えましょうとお伝えしているのではなく、DXとCXを駆動させる要因としてプロティアンという知見があるということが重要なのです。
●人的資源から「人的資本」への転換を
田中 今、このDXとCXを取り巻く重要課題として、1点避けて通れないところがあります。企業の方にもお伝えしていますが、われわれが一つ認識を変えなければいけないということで、それは人に対する認識です。
こちらにあるように、これまでの日本型雇用では、企業は人的資源という捉え方をしていました。資源とは一体何か。目の前にある「私」という資源をうまく使おう。一番能力が発揮できるような部署に入ってもらおう。そのような形で、人事が調整やコントロールをしていました。
これが「人的資源マネジメント」と呼ばれていますが、そうではありません。資源ではなく、人はそのまま伸びるからです。これを表現するためには、capital=「人的資本」として捉える必要がある。つまり、「ヒューマンリソース(人的資源)からヒューマンキャピタル(人的資本)へ」という方向で、われわれは認識を転換させなければいけないのです。
この認識の転換については、「なんとなく分かる」と、直観的にご理解いただけると思います。なぜならば、先ほどのDXとCXもあり、皆さんが感じられているように変化のスピードが速い。そうなると、今までと違った仕事にも職種にも挑戦できるような主体的なキャリア形成が欠かせない。そうだとすると、働く人を人的資本と捉え、その人が自ら主体的にレベルアップしていくためのキャリア・トランスフォーメーションが欠かせないからです。
さらに、人的資本と考えたときに押さえておかなければいけないポイントが二つあります。まず、人的資本をいかに伸ばすのか。私は「人的資本の最大化」と呼んでいますが、これにはいろいろな総合的で戦略的な取り組みが必要です。これを動かしていくのがプロティアン・キャリアになるわけですが、まず1点目は人的資本の最大化です。
そして、皆さんの高い関心を集めるものとして、「人的資本の情報開示」があります。情報開示(のガイドラインとして)は、国際基準であるISO(30414)に11項目が定められています。詳しくは皆さんで調べていただければと思います。
開示される情報の内容は、われわれ企業内で働いている一人一人がどのような取り組みをしているのかです。例えばダイバーシティはうまくいっているのか。生産性はうまくいっているのか。そもそもコストはどうなっているのか。あるいはガバナンスやコンプライアンスはどうなっているのか。こうした情報を企業がもっと「見える化」していくことが、グローバルスタンダードとしてのルールとして展開されるようになるということです。
●人的資源管理(HRM)から人的資本管理(HCM)へ
田中 ですから、プロティアン・キャリアでやるべきことは何かというと、個人と組織の関係性をよりよいものにしながら、人的資本の最大化に向けて、組織的取り組みをしていかなければいけないということです。
こちらのスライドにある...