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「冷戦」という言葉には三つの定義がある

米中対立の行方をどう読むか(2)対中政策はなお揺れ動く

中西輝政
京都大学名誉教授/歴史学者/国際政治学者
情報・テキスト
冷戦という語には三つの定義があり、それらに必ずしも米中関係は合致しない。より現実的には、アメリカが中国に対して経済的な牽制を仕掛ける可能性が高い。これに対して、中国も長期的には発展の可能性があり、アメリカの戦略も揺れ動くことになるだろう。(全7話中第2話)
時間:07:42
収録日:2018/12/25
追加日:2019/05/17
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≪全文≫

●冷戦ということばには三つの定義がある


 とりあえず、厳しい対立で長期にわたって、米中が今後も対立を続けていく意味で「冷戦」という言葉を使っているなら、それは明らかにそうでしょう。別の意味での冷戦ではなく、覇権を争う二つの大国があれば、いつもこの意味で冷戦はあったということです。それこそトゥキディデス(古代ギリシアの歴史家)の時代から延々とあるわけです。それを冷戦というなら、それはそういう言葉を使っていただいて結構だと思います。

 ただ冷戦の定義をするとき、私はいつも三つあると思います。一つ目はイデオロギーや価値観が根本的に違うということ。それが対立の一番の焦点になる大国間対立です。二つ目は軍事競争で、軍拡競争が果てしなく続くことです。三つ目は覇権闘争で、世界の覇権を争うことです。米ソはアフリカ諸国、中東に覇を競おうとして、一生懸命衛星国をそれぞれつくろうとして頑張りましたが、あのような勢力争いです。歴史学者的にいえば、この三つがそろって初めて冷戦だということです。

 今、米中の対立を考えていけば、二と三は当てはまるのかもしれません。覇権争いというのは、AIやロボティクスやゲノムといった先端技術をめぐる覇権争いだといわれます。

 二つ目の軍拡競争ですが、果てしなく起こる軍拡スパイラルがつきもので、これもそうかもしれません。中国も航空母艦をつくっています。ただ第二のところは、イデオロギーはそうですが、確かに中国は共産党一党独裁とはいうものの、決定的なことは市場経済を採っていることです。資本主義経済といいますか、もっといえばいわゆるアメリカを中心とした民主主義的な市場経済、自由主義的な市場経済を取っている国との貿易、あるいは経済取引関係です。これを学者は「相互依存関係」といいますが、これが非常に強いのです。ここが決定的に冷戦となり得ない大きな要因です。

 観念的な議論は別にして、冷戦かどうかという議論はこれから学者がすればいいのでしょうが、もっと大事なのは、日本にとってこれがどういう意味があるかという、具体的、現実的な話です。これを考えなければいけません。


●これからアメリカはいかに中国を経済的に牽制するか


 そこで私は、アメリカが中国の経済を追い詰めていき、そして中国を牽制しながら締め上げていって、中国の行動を改めさせると考えます。例えば、中国に投資する外国企業の持っている技術を吐き出させるとか、そういうことは止めさせられると思います。

 あるいは中国には「中国製造2025」といってスローガン化している有名な技術戦略がありますが、例えば、そうした先端技術の研究、開発、あるいは事業化を進めている企業に政府の補助金を出すということを、止めなさいというのは可能です。中国は貿易に関することなどで攻められると、それは今すぐやってもいいというところにまで軟化するでしょう。

 ただ一ついえるのは、「中国製造2025」には10の分野があるわけで、先端医療をはじめいろいろな分野があり、アメリカのいっていることを全部中国が実行したら、中国経済を大改革できるということです。

 それは、ものすごくいい外圧になります。確かにその過程で経済、金融を中心にして、中国経済のバランスが失われてしまうと、日本経済の活力がプラザ合意以後、バブル崩壊で一気に消え失せたような状況になるかもしれません。

 それはアメリカが狙っているものかどうかは、分かりません。ですから、もっと長丁場の話になるのではないかと私は思います。市場経済は一回や二回、いったんどん底に陥るようなことがあるかもしれません。それはアメリカのやり方によってか、周囲の国のやり方によって、です。


●アメリカの中国に対する戦略は揺れ動くだろう


 ただ、私の結論を先に述べますが、もう少し長期的にいえば、そうした形で中国の行動が改まるなら、それは皆ハッピーで、中国自身の発展もより加速するでしょう。アメリカも、あっという間にGDPで中国に追い抜かれてしまうでしょう。

 そうでなければ、中国経済はガタガタになって、日本の失われた30年のようなことになるかもしれません。

 そうなれば、世界経済は大変困ったことになります。ここはやはり押さえておかなくてはいけないところだと思います。

 もう一ついえるのは、中国の共産党体制をつぶすのが目的なのか、あるいは中国経済、あるいは中国の技術覇権がアメリカに追い付いてくるのを防ごうとしているのか、このどちらなのかといえば、今後のアメリカの戦略は揺れ動くということです。
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