●中国は民主化するというアメリカの予測の誤り
―― なぜアメリカは対中強硬路線を取るまで放置したのでしょうか。
中西 まさにそこがポイントだと思いますが、なぜアメリカは、中国はここまで巨大がするまで放置したといいますか、むしろ進んで中国を経済超大国の座に押し上げるべく、肥え太らせたのかと。このことは私にとって最大の疑問点です。
アメリカ人の誰に聞いても、皆同じような答えしか返ってこないのですが、中国が豊かになれば、必ず民主主義の社会を作ろうとする、民主化していくだろうと、われわれは思ったのだということです。
最近、日本語にも翻訳された『China 2049』、英文ではタイトルは『100年マラソン』というタイトルの本があります。これはアメリカの中国専門家の非常に定評のあるマイケル・ピルズベリーという人が著した本です。ピルズベリーさんは、われわれも昔からよく知っていますが、CIAやペンタゴンなどに所属して、中国の軍事情勢を見てきた、いわゆるタカ派の中国専門家です。決して親中派ではないのですが、そういう人でも、その本の中で告白しているわけです。本当だと思いますが、「私でさえ、中国は豊かになれば必然的に民主化に向かうと信じてきた」と。
しかし、2010年代に入って、その見方は間違っていたということをはっきりと悟ったから、この本を書いたということで、中国の危うさを縷々、書きつづっているわけです。
これは私の最大の疑問点ですが、そんなことを信じる大人がいるのかということです。つまり、民主化と経済の国力の発展と、一体どういう関係があるのか。社会科学的に、それをどうやって証明したのか。学問的証明はできないということを、私は学者の立場から言いたい。そう言っては身もふたもないですが、アメリカ人の「豊かになった社会は必ず民主化する」という想念、妄念といってもいいでしょう。あえていえば、それに踊らされたのが、この過去20~30年の日本ではないかと、私は声を大にしていいたいのです。
●「中国民主化論」の背景にあるのは対日戦略の成功体験
中西 私は20年も前から「中国は日本の脅威になるよ」と言ってきました。中国はこのまま強大化したら怖い国になるので、これでいいのかどうか、アメリカの真意はどこにあるのかということをしっかり確かめて、それに応じて日本も、中国と争う必要はないが、しっかりと抑止...