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経済発展すれば民主化するという考えは「妄念」だ

米中対立の行方をどう読むか(6)なぜ中国を肥大させたか

中西輝政
京都大学名誉教授/歴史学者/国際政治学者
情報・テキスト
中国に対してアメリカがなぜ経済成長を放置したのかという疑問に対しては、中国が民主化すると考えたとの答えがあるが、なぜそのように思えたのか不思議だ。今となっては遅いかもしれないが、長年の経験を基にして、アメリカは中国に対して金融戦略を軸に展開する可能性がある。(全7話中第6話)
時間:06:21
収録日:2018/12/25
追加日:2019/06/14
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≪全文≫

●中国は民主化するというアメリカの予測の誤り


―― なぜアメリカは対中強硬路線を取るまで放置したのでしょうか。

中西 まさにそこがポイントだと思いますが、なぜアメリカは、中国はここまで巨大がするまで放置したといいますか、むしろ進んで中国を経済超大国の座に押し上げるべく、肥え太らせたのかと。このことは私にとって最大の疑問点です。

 アメリカ人の誰に聞いても、皆同じような答えしか返ってこないのですが、中国が豊かになれば、必ず民主主義の社会を作ろうとする、民主化していくだろうと、われわれは思ったのだということです。

 最近、日本語にも翻訳された『China 2049』、英文ではタイトルは『100年マラソン』というタイトルの本があります。これはアメリカの中国専門家の非常に定評のあるマイケル・ピルズベリーという人が著した本です。ピルズベリーさんは、われわれも昔からよく知っていますが、CIAやペンタゴンなどに所属して、中国の軍事情勢を見てきた、いわゆるタカ派の中国専門家です。決して親中派ではないのですが、そういう人でも、その本の中で告白しているわけです。本当だと思いますが、「私でさえ、中国は豊かになれば必然的に民主化に向かうと信じてきた」と。

 しかし、2010年代に入って、その見方は間違っていたということをはっきりと悟ったから、この本を書いたということで、中国の危うさを縷々、書きつづっているわけです。

 これは私の最大の疑問点ですが、そんなことを信じる大人がいるのかということです。つまり、民主化と経済の国力の発展と、一体どういう関係があるのか。社会科学的に、それをどうやって証明したのか。学問的証明はできないということを、私は学者の立場から言いたい。そう言っては身もふたもないですが、アメリカ人の「豊かになった社会は必ず民主化する」という想念、妄念といってもいいでしょう。あえていえば、それに踊らされたのが、この過去20~30年の日本ではないかと、私は声を大にしていいたいのです。


●「中国民主化論」の背景にあるのは対日戦略の成功体験


中西 私は20年も前から「中国は日本の脅威になるよ」と言ってきました。中国はこのまま強大化したら怖い国になるので、これでいいのかどうか、アメリカの真意はどこにあるのかということをしっかり確かめて、それに応じて日本も、中国と争う必要はないが、しっかりと抑止できるだけの能力、安全保障の力、外交、情報、先端技術など、いろいろなところにもっとしっかり投資していかないと、将来中国と向き合えなくなるということを延々と言ってきました。もう嫌というほど言ってきたのです。

 だから今になって、「中国の脅威」などと言い出しているアメリカや日本の指導者の人たちの声を聞けば、何をいまさら、という思いはあります。あれほどいったでしょう、少し遅いのではないですかと。ここまで強大化した中国を、一体どうできると思うのですかと、むしろ本音ではそう言いたいぐらいです。

 しかし、そう無責任なことを言いっぱなしにはできませんから、対応策を考えなければなりません。それはわれわれの務めでもあります。その観点からいえば、アメリカがここまで中国を大きくしたことは、おそらく成功体験があるからだと私は思うのです。その成功体験は何かというと、日本です。

 今から30年前の日本は、経済超大国の座を目指して、アメリカを追い落としてでもということで、「パックスニッポニカ」といわれた、ロックフェラーセンターを買ってアメリカ全土を席巻するジャパンマネーが勢いを持った時代です。
 しかし、見事にその日本はどこかへいきました。おそらく、そこにアメリカの戦略が関わってなかったといえば、それは嘘だと思います。

 その意味でいえば、アメリカには追い上げてくる国に対して、「あ、そうか。あの時、日本に対しては効果があったね」、というわけです。
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