●ニクソンは中国の情報操作に遭っていた
中西 いずれにしても個別の問題は山ほどありますが、それを省略して一言でいえば、近年のアメリカ、特にニクソン訪中以来のアメリカが米中関係の中で、いかに中国の情報工作によってその政策決定が操作されてきたかということは、ニクソン訪中の決定そのものがそもそも中国の工作によって実現したということを含めて、最近、多くのインテリジェンス専門家によって研究されています。特にフランスでは学者がたくさんいますので、中国インテリジェンス研究がかなり進んでいるのです。
彼らによれば、フランス外務省系の特殊なソースによると、1950年代にジョセフ・マッカーシーと一緒になって、赤狩りで名を売った政治家であるリチャード・ニクソンは、その時代に中国の、一説にはハニートラップに遭って、それ以来中国が操作するアメリカの右派政治家になりました。どこの国にも右派政治家はだいたい共産主義国から見ると、操作対象にしやすい。しなくてはならない危険な要因の一つですから、浸透されます。
そういう意味でいえば、今のアメリカの共和党ほど危ない集団はないでしょう。共和党ほど共産主義のそういう工作にかかりやすい人たちはいないと思います。
●民主主義国の観念化した保守派政党は絶好の工作対象
中西 今のアメリカの共和党の、ティーパーティ、あるいは宗教原理主義、あるいはレーガン派とかいった人たちは、非常にイデオロギー化した政治家が多いのです。共産主義の伝統を持ったインテリジェンス・サービスのアプローチの基本は、「敵性浸透」という、一番自分たちに敵対する勢力になりそうな人たちをオルグすることです。特に、イデオロギーで同じ思想を共有すると装って、接近します。
昔からそうですよね。コミンテルンなんて、クー・クラックス・クラン(KKK)の中にものすごく浸透したわけです。戦前の日本、先ほどの統制派・皇道派の日本陸軍の派閥闘争にしてもそうなのです。あれは一番過激になりそうなところに浸透していっているのです。それで彼らを操って、自国の対外戦略に都合のいい方向を取らせるわけです。
日本は戦前からこれをずっとやられっぱなしの歴史があるのですが、今のアメリカの共和党は、非常に観念化した保守主義です。保守主義といっても、ヨーロッパの保守主義とは全然違います。そういう意味で、柔軟性を欠いて非常にイデオロギー的に硬直化した保守派は、容易に共産主義の浸透を受け、影響を受けて操作されてしまうのです。それは非常に簡単で、「あなた、私、同志ですね」ということで思想運動に貢献したらものすごく距離が近くなります。
ですから、そのような急進的な、あるいは観念的な思想を持った民主主義国の政党は非常に危ういということです。これは大事な教訓です。日本にとってもポイントです。ポピュリズムが広がりますから、非常に大事なことなのです。
いずれにしてもアメリカの社会に対して中国の工作の影響力が持っている力の大きさは、米中関係を少し長い目で見れば、マッカーシズムの時代から非常にはっきり見て取れるところがあるわけです。
そういう意味で、今のアメリカが取っている対中強硬政策はワシントンでもニューヨークでも、どこかで骨抜きにされていくでしょう。そう見るのが順当だと思います。
その意味で、同盟国との協調で、非常に問題を抱えている今のトランプ政権の対中政策は、隙だらけだということです。
●選挙へのサイバー介入が、どんどん行われる
中西 二つ目は、中国が域外の、アジア、東南アジア、あるいはインド、中東、アフリカ、中南米に進出し、すでに築いた地歩において、すでに経済力、マネーパワーを持っていることです。中国の対米対抗能力は意外に高く、ばかにできません。アメリカはそれをどうも捨象している傾向があります。
三つ目はインテリジェンスです。今いった工作や情報操作、あるいはアメリカの政治プロセスに対する介入で、すでにアメリカは大統領まで、外国のサイバー空間での介入によって大統領選が決まってしまっているきらいもあるわけです。そうすれば選挙のたびに介入します。いかなる国でもそれはやるでしょうし、アメリカはもちろん警戒を高めていますけれども、おそらくこの点では工作力というインテリジェンスパワーの格差があります。これはアメリカとは比べものになりません。
アメリカは非常に劣った国で、イギリスにとってはもう、ルーズベルト大統領時代から絶好の操作相手だったわけです。
●長期化すればするほどアメリカにとって不利になる
中西 その意味で、私は中国とアメリカの力勝負、力技ということになってきたら、中国に分があり、長期化すればするほどアメリカにとっては不利になるだろうと思います。したがって、ア...