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「スタートアップ・ネーション」イスラエルを知るために

イスラエルの現況と日本(1)危機感と技術開発

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
連立協議が決裂したため、9月に建国以来初となる再選挙が行われるイスラエルだが、「世界最強のスタートアップ・ネーション」として注目を集めている。では皆さんは、イスラエルについてどんな印象をお持ちだろうか。建国以降、日本とは必ずしも親密といえなかったが、国民性に共通点は多いという。そこで本シリーズでは、イスラエルの歴史と現状を正しく理解し、ともに歩める手立てを考えたい。(全6話中第1話)
時間:07:09
収録日:2019/06/11
追加日:2019/08/16
カテゴリー:
≪全文≫

●訪以5回で感じるイスラエルと日本の同質性と相違点


 今日は皆さんと一緒に、イスラエルと日本のことを考えたいと思います。最初のテーマは「イスラエルと日本 危機感と技術開発」でいきたいと考えています。

 実はつい最近、若い事業家たちと一緒にイスラエルを訪問しました。私はこれまでにイスラエルを5回ほど訪ねていますが、今回皆さんと一緒に考えたいのは、次のようなことです。イスラエルは非常に技術革新の進んでいる国ですが、その背景には強烈な危機感があります。日本も、技術革新に関しては相当頑張っていますが、危機感はほとんどない国です。ただ、非常にまじめな国民性は似ていますし、世界のアウトサイダーという意味でも似ています。とはいえ、危機感と安全保障の意識、さらに技術革新の在り方がまったく違うので、そのあたりを皆さんと一緒に勉強したいと思います。

 まず、危機感の根底にはイスラエルの歴史がありますので、これを素早く理解したいと思います。そうすると、彼らが切迫した危機感を持たざるを得ない理由が分かると思います。現在のイスラエルがめざましいイノベーションの道を驀進しているバネが、その危機感です。

 「世界最強のスタートアップ・ネーション」とまでいわれるようになったイスラエルと日本。同質的な面もあれば、非常に違った面もある両国が組むとなれば、お互いにメリットがあるのではないだろうかということを、シリーズの最後に言及してみたいと考えています。


●ネタニヤフ政権の再選挙という正念場


 最近のイスラエルについて話題になっているのは、ベンヤミン・ネタニヤフという剛腕の首相がいて、2019年4月に選挙を行った経緯です。ネタニヤフ氏の率いる党は「リクード」、対抗勢力は「青と白」という中道野党連合ですが、どちらも35議席を獲得しました。イスラエルには小党派がたくさんあるため、連立政権を組まないと政権はつくれませんが、連立を組めば勝てると見込んで、ネタニヤフ氏は早々と勝利宣言を行っています。

 ところが、組閣期限の5月30日になっても、連立協議ははかばかしくいきませんでした。そのため、議会は解散となり、9月の再選挙で仕切り直すことになりました。これは実にイスラエルが1948年に建国して以来初めてのことなので、大事件です。

 この先は、どうなっていくのでしょうか。秋の総選挙でやり直しが予定される中、米国のドナルド・トランプ大統領が、ネタニヤフ氏のシンパ発言を続けています。二人とも筋金入りの右翼ですから気が合うのでしょう。ネタニヤフ氏が政権を掌握すれば、イランや周辺諸国ににらみを効かせる形の新しい中東和平案を自分が提案しようと、トランプ氏は早くから公言していました。

 実際にはトランプ氏は2018年末には新和平案を発表したかったのですが、ネタニヤフ氏が総選挙の間は待ってくれるよう要請していたのです。選挙の結果、勝ったつもりだったのが、分からなくなってきたという次第です。


●ネタニヤフ政権とトランプ政権はなぜ仲がいいのか


 もしも、この9月にネタニヤフ氏が負けることになれば、中東は大混乱に陥るでしょう。ネタニヤフ氏にとっては、絶対勝ちたい選挙です。勝つためにはどうするか。彼の性格からすると、おそらく強硬な出方が予想されます。またパレスチナ人を弾圧したり、シリアや近隣諸国に攻撃を仕掛けたりすることもあり得ないわけではない。なかなか危ない状況です。

 トランプ氏はなぜネタニヤフ氏を熱狂的に応援するのかというと、娘婿のクシュナー氏がユダヤ教の人だということもあります。さらに、アメリカには「キリスト教福音派」の存在があります。ある意味でユダヤ教の分派であるともいわれていて、相当力の強い勢力です。彼らを大統領選挙で味方につけたいというのが、最大の理由だと思います。そのために、彼はイスラエルに対して強力な肩入れをしているわけです。

 一方、ネタニヤフ氏の方はなぜトランプ氏に接近するのでしょうか。トランプ氏は何しろ「アメリカ・ファースト」の人で、ネタニヤフ氏も「ユダヤ・ファースト」の考えです。トランプ氏を味方につけると、右傾化した国民に対して、求心力が出るのではないかと彼は読んでいるようです。反対派からは「そうでもない」という声も出ていますが、情勢は非常に不穏です。この不穏な中で力を見せつけると勝てるかもしれないということで、まことに危ない状況を迎えているのです。


●ガザ地区から死海にロケット弾が飛んでくる


 今回、私どもがイスラエルを訪ねたときの話をしましょう。

 この地図がイスラエルです。どのぐらいの広さかというと、四国のおよそ150パーセントほど、九州よりは若干小さいぐらいの国です。さらに、ほとんどが砂漠です。「ネゲブ」と書いてあるところがネゲブ砂漠。こちらが...
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