●世界一のスタートアップ率を誇るイスラエルの得意分野
イスラエルは、これまで話してきたような非常に厳しい環境の中、スタートアップで最強の国家になってきます。スタートアップは新しく企業を起こすことですが、人口比でいうとイスラエルは世界でも抜きん出たトップで、アメリカの数十倍の起業率を誇ります。
どんな分野に強いのかというと、まずサイバーセキュリティが圧倒的に強い。新しいメディア、特にインターネットに対しては圧倒的な強さです。それから、水に関するテクノロジーはただ事ではありません。イスラエルは水資源の乏しい国ですから、塩水を淡水化したり、排水を利用したりする技術を開発しています。
イスラエルの乾ききった国土を旅行していると、林や森があちこちにあることに驚きます。どうして雨があまり降らない土地にそういうものがあるのかと思いますが、これは低圧の水滴灌漑システムという、コンピュータを使ったシステムを開発したからです。植物が水をどのぐらい吸収しているのかというと、降ってきた雨量全てを吸収しているわけではありません。千分の1ほどでこと足りることもあるそうです。その場合、10分に1滴ずつぐらい、根っこのところにポトン、ポトンと植物に必要なだけの水分を与えるだけで十分に生育するということです。
ですから、イスラエルの農業は全て工場で行われます。世界最先端の技術を用いて、ふんだんな野菜を工場で生産しています。農業技術については、雨があまり降らないのを逆手に取り、オリーブやコットンを栽培し、家畜も育てます。大きな輸出産業になっています。
医療が非常に進んでいる点も特筆すべきでしょうし、金融はブロックチェーンで最先端をいっています。自動車技術も優れていて、とりわけR&D(研究開発)が進んでいます。イスラエルは自動車を生産していませんが、技術だけは超一流なので、世界自動車大手の多くがここにR&Dの拠点を置いています。数百人から数千人の従業員を置いて、活動しているのです。
●グローバル企業が続々とイスラエルにR&Dの拠点を
地図を見ていただくと、テルアビブから北へ海岸線をたどったところにハイファという街があります。そこから内陸に入ると、キリスト教で有名なナザレです。ハイファの街に行くと、広い通りが中心を貫いています。その通り沿いにグーグル、IBM、マイクロソフトなどの立派な建物が軒を連ねているのに目を奪われます。
なぜこうなったのかというと、イスラエル人が新しく開発する技術やアイデアを買いたい、インターンを雇って共同研究や共同プロジェクトを行いたいからです。シーメンスやアップルも来ていて、最近では中国企業が大規模な投資を行っているようです。
これほど世界から認められるスタートアップ・ネーションになったのは、ネタニヤフ氏が強烈に主張した方針のおかげで、このような国家になったため、その点で世界でも最強の国になっています。その背景にあるのは、非常に強い危機感とハングリー精神、緊張感です。
前半では皆さんとともに歴史を学びましたが、やはり1900年間、祖国というものがない状態でしたし、その間の歴史を調べると、毎年のように何百人あるいは何千人という単位で殺されています。本当に気の毒な歴史です。土地が持てないための苦労もあれば、ドレフュス事件に代表される差別、そしてナチスのホロコーストなど、戦慄するような仕打ちに遭っています。近代イスラエルができてからも、10年に一度は大戦争で、油断していると国ごとなくなりかねない。さらに和平の努力はことごとく挫折しています。
このような状況の中、何としてでも技術に依存して、頑張らなければならないと思うのでしょう。そういうことで努力を続けてきましたが、最近は、「戦争を知らない」世代が増えてきました。戦争を直接知っている世代は70代以上なので、それより年下の人たちの考え方は変化してきているといわれています。
●18歳までに基礎教育を徹底、仕上げは軍隊で
国家戦略は徹底して充実させています。まず、小学校が違います。子どもたちに10歳から徹底して英語とプログラミングを義務づけています。英語は2~3年やればペラペラになる教育です(日本のように10年かけてもしゃべれないというのは、不思議な国なのでしょう)。子どもたちには科学技術、ロボット、天文学、コンピュータ、宇宙空間についての学問などを徹底的に教えます。年間300時間はそれらの学習時間に費やされているそうです。
何を勉強するのか。日本は受験第一ですから、参考書を読むのが基本ですが、イスラエルではそんなことでは実際に優秀な人間になれないといわれます。特にイスラエルで一番優秀なのは軍のエリートになることです。軍のエリートになるには戦いに勝たねばならず、そのためのロ...