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2022年は希望の年、「課題解決先進国」日本への動きが活発化

2022年頭所感(1)「課題解決先進国」日本に向けた試み

小宮山宏
東京大学第28代総長
情報・テキスト
今、世界は大きな転換期を迎えている。その背景として長寿化や知識の爆発などが挙げられるが、そうした中、2022年は希望あふれる年になるだろうと語る小宮山氏。その展望として3つのポイントを挙げて、その希望について提言する。第1話ではスタートアップへの期待と、「課題解決先進国」に向けた大学の取り組みについてだ。(全2話中第1話)
≪全文≫

●人類の転換期を引き起こす3つの背景


 皆さん、新年おめでとうございます。テンミニッツTVの座長をしている小宮山宏です。年頭にあたって、少し希望のあるお話をさせていただきたいと思います。

 人類は今まさに、文化・文明の転換期を迎えています。その背景の一つ目には、人類の活動の拡大に対して、地球が小さくなってしまったという問題があります。二つ目は、寿命が延びる、つまり長寿化です。1900年頃には31歳だった世界の平均寿命がすでに73歳を超え、人類が長く生きられるようになったという長寿化の問題があります。三つ目は、知識が本当に爆発的に増えたことです。こうした地球の問題・長寿の問題・知識の問題が本質的な背景だと思います。

 そうした背景の中には、さまざまな課題があります。新型コロナもその一つですし、米中覇権争いももちろんあります。そういうことは皆さんよくご存じだと思いますし、年頭でもあるので、今日は少し希望のある話をします。間違いなく希望はあります。


●スタートアップが続々と誕生して活躍する予感


 第一は期待でもあるのですが、私は今年(2022年)あたりベンチャーやスタートアップ企業が続々と生まれてくる予感がしています。すでにいろいろな兆候はあって、必要性もあります。会社も最初は小さいですし、いずれもスタートアップでした。それがだんだんと大きくなって絶頂期を迎えて、やがて衰退していく。つまり、人間と同じようなライフサイクルをたどるのです。そのため、既存の企業が生き残るだけでは経済は衰退してしまいます。それを補うのがスタートアップです。特に、脱炭素などといったルールそのものが変わっていく転換期には、そういう新しいルールに応じたスタートアップがどんどん生まれてくれないと困るのです。

 若者の思いもそうです。もう十数年前のことになりますが、私が東京大学にいて、そうしたことがスタートした時はまだまだという感じでした。しかし、今ではファンドもずいぶん増えてきていて、ベンチャーを志す人も増えてきています。また、そうしたベンチャーを、例えばM&Aで大企業が買って自らの実業に組み込んでいく動きや、あるいはベンチャーがそのまま上場(=IPO)して大きくなっていくなど、さまざまなエコシステムの中に組み込んでいく体制ができてきています。

 最近では、例えば「プリファードネットワークス(Preferred Networks)」というAIのベンチャー企業があります。上場すると1000億円以上になるスタートアップのことを「ユニコーン」と呼ぶのですが、プリファードは日本で最大のユニコーンといわれているベンチャーです。ここがエネオス(ENEOS)と共同で新しい合弁会社をつくって、「マトランティス(Matlantis)」というアプリを売り出しています。これは「マテリアル(Material)」と、大陸の「アトランティス(Atlantis)」を組み合わせた造語ですが、AIを使って量子化学計算のスピードを非常に上げ、だいたい1万~100万倍ぐらいのスピードになりました。

 実は物質に関しては、原子から物質までシミュレーションするための方程式はもう分かっているのですが、解くのにものすごく時間がかかっていました。今、日本は「富岳」と呼ばれる世界で一番速いスーパーコンピュータを持っています。富岳に期待されているのは、新しい薬や新しい物質を、富岳を使って計算することですが、それが普通のコンピュータでできてしまうという、すさまじいAIです。もしかすると、物質開発のゲームチェンジャーになり得るのではないかと私は期待しています。

 富岳がいらなくなるわけではなくて、普通のコンピュータで富岳でやろうとしていることができてしまうのですが、富岳を使うと、例えばタンパク質のようなもっと大きな分子まで論理的に計算できます。もしかすると、GAFAに次ぐようなゲームチェンジャーになり得るのではないかという期待があるのです。そういうものがすでに出始めているので、2022年には大いに期待しています。


●「課題先進国」から「課題解決先進国」へ、大学が活動の場となる


 第二ですが、私は前から日本を「課題先進国」と言ってきました。日本は長寿社会や少子化、地方の過疎など、世界の課題を先進的に抱える「課題先進国」です。それを「課題解決先進国」にしてくれるのではないかという動きが、ずいぶん顕著に目立ち出しました。

 例えば、北海道の岩見沢市が北海道大学(北大)と連携して、低出生体重児率を低下させました。2500グラム以下で生まれてくる赤ちゃんのことを「低出生体重児」と呼ぶのですが、日本には10パーセントほどいます。これは大変な社会課題で、先進国の中でその率は一番悪いのです。育つのも大変で、大人になってからもいろいろな課題を抱えるといわれている、大変大きな問題です。

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