●マクロン氏はEU改革を目指している
エマニュエル・マクロン氏は何をやるというと、国内のことでいえば、公務員削減や財政再建、労働時間の短縮化などです。けれどもマクロン氏が一番やりたいのはヨーロッパの改革なのです。見ているポイントは非常に良く、なぜユーロがあのように駄目かというと、こういうことです。
ユーロという通貨を十何カ国で共通通貨にしました。ドイツのように生産性の高い国やギリシャやイタリアのように生産性の低い国などがあります。その中間値の通貨を導入したわけです。ドイツから見たらマルクに比べると価値が半分ですから、非常に大量に売れるわけです。
一方、南の国から見たら、自分たちの国は生産性が低いのにこのような高い通貨を持っていて良いのか、といった感じです。ですから次々と借りてしまいます。そういうことをやるものですから、ユーロが崩壊します。一番重要なのは、通貨を一つにしたら財政を一つにしなければならないことです。
分かりやすくいうと、日本は円が共通ですが、例えば島根と東京では生産性が大きく異なります。北海道もそうです。もし各国通貨のようなものを導入したら、北海道の円と島根の円は東京の円の10分の1くらいの価値になるかもしれません。
しかし、共通通貨でなぜやるのかというと、東京から財政支出が向こうに行っているからです。つまり、財政統一しているからです。こういったことをマクロン氏はヨーロッパでやりたいのです。ですから、財政統合とはいわないけれど、ヨーロッパ共通予算をつくり、ヨーロッパ財務大臣をつくるということを一生懸命唱えているのです。
昔、ヨーロッパという国をつくろうとした人がいました。ジャン・モネという人ですが、大変な理想家で国際連盟の事務局長までやった人です。この人は戦後に戦争のない地域をつくろうとしてEUの創設に尽力したのですが、頑強に反対してつぶした人がいるのです。
誰かといえば、フランスのシャルル・ド・ゴールです。彼につぶされて今のような設計ミスのユーロになっているのです。ですから、マクロン氏はそれを正したいという悲願があります。そこでメルケル氏も、まあいいのではないか、といったように次第になってきました。
●EU改革がフランス国内の反発を引き起こす
ところが、次のようなことが起きたのです。マクロン氏はとても成果を挙げました。労働問題についても、次々とストライキをやられている中で、組合の本部に乗り込んで労働条件の弾力化を達成したり、軍と闘って予算を減らしたりとさまざまなことをやったのですが、2018年の11月からパリを中心に大デモになってしまいました。皆、「黄色いベスト」を着て、「マクロン、辞めろ」と大騒ぎで、デモでは3人が亡くなっています。
また、ガソリン代の引き上げということですが、なぜそれを行うのかというと、フランスの財政赤字を3パーセント以内に抑えるためなのです。
ところが、フランスは農業国で、農民が車をよく使います。労働者もよく使います。よって、彼らから、非常に評判が悪いのです。その前にマクロン氏が大統領になった途端に金持ちの税を減税したということもあり、実は最初から48パーセントは反マクロンなのです。
ですから、政治情勢が少し悪化して、とうとうガソリン税を撤回しましたので3パーセントの目標が守れなくなりました。そうすると、南欧の諸国にフランスのご威光が効かないので、挫折するかもしれません。その南欧を含めたさまざまな国に今とんでもないことが起きています。「Eurosceptism(反欧州主義)」の政党が台頭してきました。
●EU各地で反EU主義が台頭している
ギリシャで、皆さんよく知っている「SYRIZA(急進左派連合)」という非常に過激な政党があります。ポーランドには「法と正義」といいますが、これは断然移民受け入れ反対です。オーストリアでは自由党で、これも移民反対で、国民党と連立政権を組んでいます。
イタリアは財政規律を批判している「五つ星運動」という党があります。それが、移民は絶対に拒否という、マッテオ・サルヴィーニ氏が書記長をやっている「同盟」と連立政権を組んでいます。
ハンガリーは、オルバン・ビクトル首相です。彼は超民族主義者ですが、首相を続けています。
ドイツはAfDが出てきています。このようにどの国も新しい動きが見られますが、これはどういうことかというと、要するにこういうことです。EUという高い理想を掲げたところで、財政規律もあり、民主主義や人権を表に立てて進めていこうと言っていたのですが、人権だから外国人を受け入れるなどさまざまなことをやってしまい、また財政規律をやられると、結局いい思いができないのです。
すっかりEUに幻滅している上に、やはり移民や難民の受け入れは...