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中国とアメリカの覇権闘争と北朝鮮問題の行方

2019年激変する世界と日本の針路(11)中国の行方と北朝鮮

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
苦境に立たされている中国ではあるが、長く反植民地化されてきた歴史を踏まえ産業連関を踏まえた30年計画の経済成長戦略に基づいている。これは米国にとっては脅威であり、両国の間で覇権闘争が起きている。また、トランプ大統領になってから北朝鮮問題も動きを見せている。もし、終戦することになれば日本にも影響がでてくる、と島田氏は語る。(2019年1月28日開催島田塾会長講演「激変する世界と日本の針路」より、全14話中第11話)
時間:11:17
収録日:2019/01/28
追加日:2019/05/21
カテゴリー:
≪全文≫

●長い苦境を踏まえての「中国の夢」


 中国はこの程度のことでは屈しないと思います。中国が次々と追い上げてくるのは、もともと鄧小平が築いた基礎があるからです。習近平氏は、2020年、2030年、2049年、とホップ・ステップ・ジャンプ(三段跳び)のように世界最強の経済軍事強国をつくると言っているのです。

 そのためには経済力が重要です。経済力の基本はイノベーションイノベーションの基本は…、といったようにそれが基本戦略なのです。なぜそこまで言うかというと、習近平氏が国家主席になった途端に「中国夢」と言いました。

 中国の夢というのはこのようなものです。今から78年前、中国はどのような目に遭ったのでしょうか。1840~42年のアヘン戦争、56年のアロー号事件で、イギリスに難癖を付けられて事実上、植民地状態になりました。欧米列強が入ってきて、中国に利権を設定しました。そして、1931年に日本軍が進出しました。こうした恨みを中国人民は晴らすときが来たということで、「中国夢」なのです。中国に行くと高速道路でもどこでも全部、赤い字で「中国夢」と書いてあります。


●産業連関を踏まえた経済成長戦略


 また、技術革新の階段の中に、「中国製造2025」というものがあります。これはどういうものでしょうか。習近平氏の前の国家主席は、胡錦濤氏でした。胡錦濤氏も、非常に技術革新が重要だと言って、ハイテク産業を伸ばそうとして、それを「創新」と言いました。イノベーションという意味です。

 「創新」政策でターゲットにしたのはハイテク産業で、次々とピックアップしようとしたのです。例えるならば、地面があって、草が生えて、幹がこう育ってその上に大きな花が咲くのが、ハイテクなのです。そのためには葉っぱが必要、幹が必要、地面が必要、根っこが必要、栄養が必要なのですが、そのようになっていなかったので、「創新」はあまり大したことがありませんでした。

 2015年に国務院総理の李克強氏という方がいます。彼が考えたのが「中国製造2025」なのです。ここには、根っこから幹から葉っぱまで入っているのです。その上にハイテクを育てようというものです。ですから重産業を徹底的にやるといいます。

 例えば、次世代情報技術、高度なデジタル制御の工作機械・ロボット、航空・宇宙設備、海洋エンジニアリング・ハイテク船舶、先端の鉄道、省エネ・新エネ自動車、電力設備、農業用機材、新素材、バイオ医薬、医療。つまり、経済学者ワシーリー・レオンチェフの産業連関を組織的に築き、この上にハイテクを育てるという計画なのです。これを見て、アメリカの専門家は戦慄しました。中国は本気だと考えたのです。


●米中間で覇権闘争が起きている


 中国とアメリカの関係は、よく「トゥキディデスの罠」といわれます。トゥキディデスはギリシャの歴史家です。彼はアテネの人です。当時、覇権国はスパルタでしたが、アテネが新興国として伸びてきました。結局、最終的にはペロポネソス海で戦争があって、アテネが勝ったのです。

 この時、歴史家のトゥキディデスが「これは覇権闘争なのだ」と言いました。覇権闘争は必ず戦争になるという歴史物語を書いているわけです。それは、その後さまざまな歴史家が調べているのですけど、50回ほど覇権といわれるものがあって30回ほどは本当に戦争になっているのです。そして今の米中が少しそれに近いのです。

 実はこういうことがありました。19世紀に世界史で有名なGreat Gameというものがありました。これはイギリスとロシアの戦いです。熾烈な戦いでした。ロシアは次第に南下しようとしたので、イギリスは非常に恐怖感を持ちました。しかも、ロシアはシベリア鉄道をつくったものですから、イギリスは東の国で日本を同盟国に選びました。これが日英同盟です。徹底的に日本を助けてくれたので、日露戦争で日本がギリギリで勝つことができました。これは完全に覇権闘争です。


●これまでの覇権闘争においてアメリカは相手を時間をかけてつぶしてきた


 20世紀後半に、米ソ冷戦がありました。朝鮮戦争から冷戦が始まりました。アメリカは、共産圏を取り囲んで、つぶそうとしましたが簡単につぶせません。しかし、40年かけて、とうとうソ連は崩壊しました。アメリカは一度つぶそうと思えば40年かけます。

 一方、真珠湾闘争で負けた日本ですが、1985年にアメリカ1人当たりのGDPを追い抜きました。これはつぶさなければ、とアメリカは思ったはずです。そこで、信じがたいことですが、アメリカのジェイムズ・ベイカー財務長官が先進5カ国蔵相・中央銀行総裁をプラザホテルに集めて、ドル高是正のため為替協調介入を決めました。そして、実際に急激な円高(ドル安)が進行しました。

 これでは大変だといって日本は財政・金融を総動員しました。...
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