●「経済安定基金」活用をめぐるユーロ圏の攻防
今回はEUとヨーロッパ諸国について触れていきます。3月に入ってヨーロッパ諸国に感染が急速に広まると、各国の首脳もEU当局も危機感を強めて、「containment: 封じ込め。ステイホーム」政策が各国の経済にもたらす深刻な影響を軽減させるための方策を模索します。とくに中小企業を倒産させないこと、仕事や所得を失った勤労者を救済することを重視して、主要国ではみな、これまでになかったような大型経済対策を打っていきます。
ユーロ圏全体としての策を講じるため、「経済安定基金(ESM)」の活用による総額5400億ユーロ(64兆円)の経済対策について合意が得られます。これを雇用維持対策、資金繰り対策に使うという方向性は定まりましたが、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が強く提案した「ユーロ圏における共同債券の発行」による経済復興案は見送りになります。
4月23日にはEU首脳がテレビ会議を行いますが、財源についての結論は持ち越しとなります。なぜ持ち越されたのかというと、北部欧州と南欧諸国の格差や対立があるからです。北部欧州はオーストリア、オランダ、ドイツなどの経済的に成績のいい国々、南欧は地中海に面したイタリア、スペイン、ギリシアなどです。
北部欧州には、自分たちが頑張ってここまで来たという気持ちがあるので、南欧の借金の肩代わりは受け入れられません。資金を提供するのはいいけれども、必ず「貸付」として「返済」を求めるべきだと主張します。そう言われても、南欧諸国にはとうてい返済できるあてがない。「自分たちに死ねというのか」というような、大変な議論になってしまいます。何度も攻防が繰り返され、そのたびに暗礁に乗り上げました。
●メルケル+マクロンの「歴史的決断」とは
ところが、5月18日に世界中があっと思うようなことが起きます。ドイツのアンゲラ・メルケル首相とマクロン大統領がビデオ会議を行い、「ヨーロッパの経済復興のために5000億ユーロ(約60兆円)の新しい基金を設立しよう」という合意に至ったのです。
基金の性質としては、以前からマクロン氏が希望していたように、EUの信用によって金融市場から多額の融資を行い、半分ほどをイタリアやスペインなどの困窮国に給付するという案です。これまでドイツやオーストリアの反応は、「ふざけるな」という論調でしたが、そ...