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メルケル首相とマクロン大統領による「歴史的決断」とは

コロナ禍で揺れる世界経済の行方(5)EUとヨーロッパ情勢

島田晴雄
東京都公立大学法人理事長/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
新型コロナウイルスはEUとヨーロッパ諸国にも甚大な影響を与えた。中でもイタリアの医療崩壊、イギリスの首相や皇太子の感染などのニュースは、日本人の心胆をも寒くしたものだ。しかし、世界の多くの国が「自国ファースト」になる現在、EUでは協力して苦難を乗り越えるための歴史的な動きが始動している。(全9話中第5話)
≪全文≫

●「経済安定基金」活用をめぐるユーロ圏の攻防


 今回はEUとヨーロッパ諸国について触れていきます。3月に入ってヨーロッパ諸国に感染が急速に広まると、各国の首脳もEU当局も危機感を強めて、「containment: 封じ込め。ステイホーム」政策が各国の経済にもたらす深刻な影響を軽減させるための方策を模索します。とくに中小企業を倒産させないこと、仕事や所得を失った勤労者を救済することを重視して、主要国ではみな、これまでになかったような大型経済対策を打っていきます。

 ユーロ圏全体としての策を講じるため、「経済安定基金(ESM)」の活用による総額5400億ユーロ(64兆円)の経済対策について合意が得られます。これを雇用維持対策、資金繰り対策に使うという方向性は定まりましたが、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が強く提案した「ユーロ圏における共同債券の発行」による経済復興案は見送りになります。

 4月23日にはEU首脳がテレビ会議を行いますが、財源についての結論は持ち越しとなります。なぜ持ち越されたのかというと、北部欧州と南欧諸国の格差や対立があるからです。北部欧州はオーストリア、オランダ、ドイツなどの経済的に成績のいい国々、南欧は地中海に面したイタリア、スペイン、ギリシアなどです。

 北部欧州には、自分たちが頑張ってここまで来たという気持ちがあるので、南欧の借金の肩代わりは受け入れられません。資金を提供するのはいいけれども、必ず「貸付」として「返済」を求めるべきだと主張します。そう言われても、南欧諸国にはとうてい返済できるあてがない。「自分たちに死ねというのか」というような、大変な議論になってしまいます。何度も攻防が繰り返され、そのたびに暗礁に乗り上げました。


●メルケル+マクロンの「歴史的決断」とは


 ところが、5月18日に世界中があっと思うようなことが起きます。ドイツのアンゲラ・メルケル首相とマクロン大統領がビデオ会議を行い、「ヨーロッパの経済復興のために5000億ユーロ(約60兆円)の新しい基金を設立しよう」という合意に至ったのです。

 基金の性質としては、以前からマクロン氏が希望していたように、EUの信用によって金融市場から多額の融資を行い、半分ほどをイタリアやスペインなどの困窮国に給付するという案です。これまでドイツやオーストリアの反応は、「ふざけるな」という論調でしたが、それをメルケル氏が押し切ったわけです。

 メルケル氏は「今はEUの歴史上、空前の深刻な危機に直面している。空前の危機にはそれにふさわしい答えが必要だ」と述べ、マクロン氏は「その通りだ」と言ったわけです。フィナンシャル・タイムズの著名な論客であるマーティン・ウルフ氏は、「EUを持続発展させるための偉大な歴史的決断」と絶賛しています。借り上げた60兆円のうち半分ぐらいを苦労している国にあげてしまうわけで、EUの歴史上かつてなかったことです。


●EUの「復興計画案」と、対立する倹約4カ国


 5月末には、新しい欧州委員会委員長のフォン・デア・ライエン氏が「復興計画案」を公表します。ライエン氏は、ドイツの国防大臣などを歴任した方です。

 この復興計画は全27加盟国が同意しなければいけないので、簡単ではありません。早速6月に入ると、「この復興計画はけしからん」と言い出す国々が現れました。もともと「Frugal4(倹約4カ国)」と呼ばれる国で、オランダ、オーストリア、スウェーデン、デンマークなどです。

 彼らの主張は理論的には間違っていません。「失業率が高くて国がやっていけないから支援するということだけれども、その主な原因はコロナウイルスではないだろう。例えばイタリアなど、(コロナ)以前からひどい状態ではないか」と言うわけです。

 しかし、フォン・デア・ライエン氏はなかなか強腰で、「この基金は、低所得で高失業の国を救済するのが目的」だから、「あなたがたは黙っていらっしゃい」と言わんばかりです。多分、この案は通るのではないかと見られていますが、まだ相当曲折があるでしょう。しかし、コロナウイルスのおかげで、ヨーロッパにおける世界史は今、変わろうとしています。


●最悪のタイミングでコロナ感染が起こった国イタリア


 ここからは、ヨーロッパ圏の重要な国をいくつか見ていきましょう。まず、本当にひどい目にあったイタリアです。イタリアにコロナが入ってきたのは2月の終わりから3月の初旬ですが、これは最悪のタイミングだったというのが関係者の見方です。

 なぜなら、イタリアはそれまでもずっと経済が不振でした。イタリアがEUに参加して以来25年間、平均成長率は0.6パーセントです。欧州の他の国の平均が1.6パーセントですから、それよりも6割ほど低いことになります。それがコロナウイルスに襲われ、感染爆発が起きて、3月下旬の...
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