●感染抑制と経済活動維持のトレードオフ
島田晴雄です。よろしくお願いします。今日は皆さんと一緒にコロナウイルスの感染問題と世界経済とがどう関わっているかを全般的に見ようということで、これから時間をいただいていきたいと思います。
コロナウイルスに打ち勝つワクチンが開発されるかどうかについては、まだ相当時間がかかると思います。ワクチンが開発されないと、人々は感染を避けようとする。そのためにはお互い同士、至近距離に近づかない。「ソーシャル・ディスタンシング」といわれていますが、これを行うための一番極端な方法は都市封鎖(ロックダウン)です。いわば「みんな、動くな」ということです。ただ、人々が動いたり、接触したりすることは経済活動そのものなので、こうした政策は経済活動を止めることになるわけです。
今、世界が一番悩んでいるのは、どの程度まで経済活動をしながら感染を回避することができるか、という問題だと思います。「感染を抑制する」ことと「経済活動を維持する」ことは二律背反で、トレードオフの関係にあるからです。
感染を抑制するということは、人に会わない、移動しないということですから、経済そのものが駄目になってしまう。経済を維持する活動をさせると、感染がどっと出てくる可能性がある。今、世界中の国は、そのことにどうバランスを取るかということで、懸命に試行錯誤しています。こういう現状について、これから皆さんと一緒に総合的に勉強しようということです。
●世界諸国の感染状況を振り返る
最初に考えたいのは、今申し上げたトレードオフ関係が、理論的にはどういうことなのかという点です。その理論的な整理に入る前に、まずは、これまでウイルスの感染が地球上を大変な混乱に巻き込んできた、この半年ほどをざっと簡単に振り返ってみたいと思います。
図1(「世界諸国の感染状況:感染増大と収束」)を見ていただくと、感染が始まってから各国ではどのぐらい被害を受けたかということが、100人以上の感染が出たところを起点にして並べてあります。
時系列的に過去を振り返ってみると、2019年の12月末に、中国の武漢市で最初の感染が確認されました。そこから中国では感染者8万人という爆発が起きたのですが、これを非常に見事に1カ月ぐらいで終息させています。
2020年2月中旬以降、これがヨーロッパに飛び火をして急速に拡大します。3月に入ると、ヨーロッパで感染が爆発するのと同時に、今度はアメリカに波及し、3月後半からアメリカの感染爆発が起こります。6月11日時点での感染者は200万人を超え、亡くなった人は11万人を超えるということで、世界中の感染者(729万人)と死者(41.3万人)のほぼ3分の1ずつの世界最多をアメリカが占め、まだ終息を迎えていません。
アジア諸国はなかなかの賢いパフォーマンスをしています。韓国、台湾、シンガポールは検査の徹底と感染者の隔離によって、大きな感染爆発を回避しました。日本も世界の中で比べると感染も少なく、死者も少ないため、なかなか成功例ではないかといわれています。
このような流れを全部重ねていくと、図1のかたちになります。感染が始まると急速に増えていく。それで緩やかに終息していくというのが共通のパターンで、なぜかアメリカだけが少し外れているということです。
●医療崩壊と感染爆発の関係
それらをうんと単純化したのが図2(「感染曲線」)です。英語では「epi curve」と呼んでおり、「epidemiological(疫学的)」な段階を表すカーブです。最初はウイルスの発見、次の第二段階が感染者の確認、第三段階では感染者の急増、場合によってはオーバーシュート(感染爆発)となります。第四段階ではピークを過ぎて新規感染者が減少を始め、第五段階で収束を迎えます。多くの国々は、このパターンを経ているわけです。
今のところ、ワクチンが開発されておらず、活用できる状態に至っていないため、世界は感染を抑制して克服しなければいけません。それにはいろいろな方法がありますが、まず感染者の有無を確認して、感染している人は隔離して治療する。その他全ての人々に「互いに接触しないでください」とソーシャル・ディスタンシングを呼びかけます。ソーシャル・ディスタンシングを徹底することは非常に重要で、これが不徹底であるとオーバーシュートとなり、管理不能の感染爆発が起きてしまいます。
オーバーシュートはどこから起きるかというと、いわゆる「医療崩壊」によって起きます。どっと増えた感染者は病院に殺到しますが、病院には、ベッドもICUも、熟練の医師や看護師も、人工呼吸器も、みな有限のキャパシティーしかありません。そこに殺到すると、すでに他の...