テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

新興国、途上国、貧困国での感染拡大が世界に与える影響

コロナパンデミックと闘う世界と今後の課題(5)新興国・途上国・貧困国の現実

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
先進国における感染拡大を経て、2020年7月現在の感染拡大の中心は新興国、途上国、貧困国へと移った。これらの国々はインフラが整っていないため、ウイルスの感染拡大に対して効果的な対応が取れていない。また、経済的な打撃も甚大である。こうした国々での感染の更なる拡大は先進国にも必ず影響を与える。地球全体のリスクを考えて、これからの対応を模索していく必要がある。(全12話中第5話)
時間:09:27
収録日:2020/07/16
追加日:2020/08/28
キーワード:
≪全文≫

●新興国・途上国・貧困国における感染拡大のリスクは先進国の比ではない


 最大の問題は、新興国、途上国、貧困国の問題です。先ほどご覧いただいた図1に示された通り、今急速に感染が拡大しているのはこれらの国々です。世界の新規感染者の8割は、これらの国々で発生しています。アメリカは例外ですが、ブラジル、インド、ロシアはアメリカに次いで新規感染者数の2位、3位、4位を占めているのです。インドの人口は14億人に届こうとしています。ブラジルは2億1千万人ほどです。ロシアは日本とそれほど変わらない1億4500万人ほどです。

 その他にも途上国や貧困国は多く存在します。アフリカ、南米、中央アジア、中東の国々です。これらの国々では、検査システムがきちんと整備されていないので、実態が正確に把握されていない可能性があります。実態が明らかになってくると、おそらく現在の発表の何倍もの感染者が出てくると思います。

 これらの国々は総じて、医療体制が非常に劣悪で、衛生状況も非常に悪く、貧困に苦しんでいます。他の感染症も蔓延しており、死亡率も高い水準にあります。そのような場所にこのコロナウイルスの感染が拡大すると、医療崩壊がすぐに起こると予想されます。これが相乗効果を生み出して、深刻な事態となっていきます。

 衛生状況の劣悪さは、多くの国に存在する貧民街に行ってみると分かります。私もインドのオールドデリーで訪れたことがあります。電線は朽ちていて、車では入れないので人力車に乗って入っていって、さらに奥ではあとは歩けといわれました。この貧民窟には階段があり、そこに老若男女が座っていたのですが、その貧民窟で生まれて死ぬ人たちも多いそうです。インドの酷い地域は、本当に気の毒な状況です。そのようなスラム街では水道がなく、石鹸も自由に使えません。水は水道ではなく汲み水を用いています。汲み水を溜めておき、料理や沐浴、汚水処理などに用いているのです。このような衛生状況で、感染が拡大しないわけがありません。


●先進国の議論とそれ以外の国の要望は著しく乖離


 これらの国々は、強力な統制措置を取りました。例えば、インドのナレンドラ・モディ首相は、全土をロックダウンするために、戒厳令のように夜間外出禁止令を出し、軍隊的に統制しました。南アフリカも同様の措置を取っていますが、こうした対策に意味があるのかという問題提起を、さまざまな専門家が起こしています。

 これらの国々では、総じてインフォーマルセクターの割合が大きいのです。インフォーマルセクターは「地下経済」とも訳されますが、行商人や鍋釜の修理、靴磨きなどを行う彼らに外出禁止を命じれば、2、3日で深刻な経済状況に陥ります。こうした施策にモディ首相は今取り組んでいるのです。それでも、感染の拡大は止まっていません。こうした外出制限が効果を発揮できるのは、医療体制と検査能力を強化できる国、つまり先進国だけなのです。ですので、この問題がどのような影響をもたらすのか、現時点では本当に分かりません。インドではロックダウン5.0などとバージョンをアップデートして、徹底的なロックダウンに取り組んでいますが、感染者と死亡者の増加を止めるには至っていません。

 これらの国々は深刻な財政難と巨額の負債に苦しんでいます。もともと輸出で外貨を仕入れて、観光客も多かったのですが、コロナ不況によって激減して、外貨が稼げなくなっています。その結果通貨安になり、多くの場合債務負担が激増します。さらに、輸出が減退しているので、経常収支が悪化し、その結果、外貨準備が減少するのです。

 これまでは「BRICs」と呼ばれてこれからの世界を担う国とされていたので、多くの投資家が投資して、外貨準備も右肩上がりに増えていました。ところが、今ではそうした流れは完全にストップしてしまいました。どこの国も貸してくれなくなってしまったのですが、キャッシュがないので、それでも懸命に借りようとするわけですね。新興国、途上国、貧困国の国々は4月の1か月間で、日本円にして約9兆円借り入れたといわれていますが、投資家の資金引き上げがその原因なのです。これまでは非常に低金利で成長期待があったので、投機・投資が膨張していましたが、現状では多くの投資家がリスク回避で引き上げているので、極端な通貨下落が起きています。その結果、債務が膨張するという悪循環を繰り返しているのです。このようなメカニズムが背景にあります。

 これに対応するために、4月中旬にG7とG20の蔵相中央銀行会議が相次いで開かれました。さまざまな議論がありましたが、最終的には他国への債務の返済期限を今年(2020年)の末まで延期するという程度で、それ以上の案は出てきませんでした。この議論に対して、関係各国は不満...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。