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世界経済は「大封鎖」――大恐慌以来の景気後退もとIMF警告

コロナパンデミックと闘う世界と今後の課題(6)ワクチン開発の長期化とIMFの経済予測

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
コロナウイルスには頻繁に変異が起こりやすいという特徴があるため、このウイルスに対処するためのワクチンを開発・製造するのは非常に難しい。こうした対応の難しさもあり、予期せぬ感染拡大を招き、IMFも景気後退に関して当初の見通しからさらに下方修正を余儀なくされた。今回の騒動によって、大恐慌以来の景気後退に陥る可能性も否定できない。(全12話中第6話)
時間:07:40
収録日:2020/07/16
追加日:2020/08/30
≪全文≫

●変幻自在に変異していくコロナウイルス


 ウイルスとは、どうやら長期の付き合いになりそうです。ここで、皆さんとウイルスについて復習してみたいと思います。ウイルスは、生物の細胞に感染して増える、非常に小さな構造体です。遺伝子がタンパク質の殻に包まれているものと、そして殻の外側に脂質の膜をまとっているものがあります。脂質性の膜は界面活性剤に弱いので、石鹸を用いた洗浄が効果的です。しかし、ウイルスは非常に微小で、手のしわなどではなく、細胞の中に入っているので、破壊するのはなかなか難しいようです。

 大きさは概ね5000分の1ミリメートル以下です。普通の生物をかたちづくっている細胞よりもとても小さいのです。さらに、自分では増殖できません。したがって、他の生物の細胞に寄生して、その栄養分で増殖していきます。生物は普通細胞分裂を繰り返して成長しますが、コロナウイルスなどのウイルスは細胞を持たないので、生物ではないといわれています。生命体、構造体などと呼ばれています。

 ウイルスにはDNAを遺伝子として持つものと、RNAを遺伝子として持つものがあります。コロナウイルスやエボラウイルス、インフルエンザウイルスは、RNAを遺伝子情報としても持っています。DNAは二重らせんの帯の構造を持っています。二重らせんであるために、一方が壊れた際に複製することができます。そのため、今までに引き継がれてきた情報が失われません。安定と秩序を持って、連綿と次世代に情報を引き継いでいくことができるのです。普通の生物はそのような構造を持っています。人類の起源には諸説ありますが、およそ180万年前に発生したといわれています。対して、ウイルスの起源はおよそ30億年前だそうなので、桁が大きく異なります。ウイルスのほうが大先輩ですよね。

 対して、RNAは遺伝子情報が記載された帯を一本しか持たないため、何かのショックで情報が壊れるとそれを修復することができません。その結果、ざっくりいうと別種に変わってしまうのです。これは変異と呼ばれます。変異したウイルスは感染した細胞の力を借りて、別種のウイルスとして増殖していきます。ウイルスは生物の細胞に侵入して寄生して増殖するので、寄生した生物が死んでしまうとウイルスも消滅します。

 したがって、コロナウイルスの場合でも、人間の細胞に侵入しても感染を受けた人体が無症状感染である限り、コロナウイルスは増殖し続けることができます。重症化して感染者が亡くなってしまうと、コロナウイルスも消えてしまうのです。ですので、無症状患者が増えていくという状況を見ると、あたかもコロナウイルスが生存の知恵を持っているように見えるかもしれませんが、これは要するにダーウィンの法則なのです。現状の環境に適応したウイルスが存続して、増殖しているのです。このように、このウイルスは頻繁に変異するのです。1週間で変異するということもあるようで、変幻自在に変異していくのです。


●ワクチン開発には長期戦が不可避


 こうした頻繁に変異するウイルスを対象として、ワクチンを開発することは、容易ではありません。したがって、ワクチン開発は大手企業でないと取り組むことができません。この大手企業は、十何種類ものワクチンを同時に研究開発製造を行う必要があるようです。したがって、非常に多くの情報が必要となり、費用も時間もかかります。ですので、長期戦が不可避となるのは、このようなメカニズムが背景にあるからです。

 その長期戦の間は、企業も社会もソーシャルディスタンスを保って消毒と清潔を守ることを強いられるので、経済活動は非常に抑圧されますよね。


●IMFも予期せぬ感染の拡大を受けて見通しを下方修正した


 こうした状況を受けて、国際機関は対応を余儀なくされています。2020年4月にIMFが総合的な世界経済予測を出しましたが、それからまた随分状況が変化しました。4月13日の報告の前提では、2020年前半まで感染拡大は続くものの夏からは収束して、後半には経済は回復に入るとされていました。

 しかし、パンデミックが収束しないという状況を受けて、6月24日に予測を全面改訂しました。ここまで指摘したとおり、現在も第二波の兆候がさまざまな地域で顕著になってきました。日本でも、感染拡大第二波の流れに入ってきています。以前の予測では世界経済全体では今年の成長率はマイナス3.0ポイントでしたが、6月24日の予測では今年はマイナス4.9ポイントになるそうです。日本はマイナス5.2からマイナス5.8へ、アメリカはマイナス5.9がマイナス8.0に下方修正されました。ユーロ圏ではマイナス7.5からマイナス10.2と相当悪化しています。中国は比較的に下げ幅が小さいですが、プラス1.2からプラス1.0になりました。ブラジルではマイナス6.3からマイナス9.1になりました。先進諸...
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