●医療安全保障の国際協力体制を整備することの必要性
最後に、現在ダークエイジに進む流れがある中で、これを阻止するために、われわれは何をしていけば良いのか考えたいと思います。最後に5つの提案をして、私の講義を完結させたいと思います。
最も重要なのは、医療安全保障の国際協力です。パンデミックとの戦いは、人類とウィルスの戦争です。これまでの安全保障は、地政学的な国家間の紛争のみを扱ってきました。しかし、現在の戦いは全人類の安全保障です。リーマンショックの際には、バラク・オバマ大統領とイギリスのゴードン・ブラウン首相らの尽力でG20が結成されて、それ以降さまざまな場面でこの国際協力体制が、経済政策の運用のために機能しています。
ところが、今回の場合は、トランプ政権が最も重要な国際連合の機関である、WHOから脱退するという暴挙に出ています。世界の衛生と医療を守る国際協力が崩壊する危機に直面しているのです。ですので、日本も含めて他の国々が協力して、アメリカの人々も巻き込んで、国際医療安全保障体制を再構築する必要があります。総力を挙げてそのような組織をつくり、世界の衛生と健康増進を図る努力をすべきです。
今、世界の有力な国々がワクチン開発に取り組んでいますが、それ以外の国々にワクチンが供給される体制をつくらなければ、この感染爆発は繰り返し起こり、世界的な悪影響がもたらされます。アメリカは非常に優れた技術も、人材も、組織も持っています。ですので、何とかしてアメリカを巻き込む必要があります。そして、衛生環境が悪い、医療インフラの整っていない国々を支援しなければなりません。
私はその中で日本が貢献できる余地は非常に大きいと思っています。その理由は、日本はコロナ対策のほとんどは自粛などの自主努力ですが、(現時点で)被害は最小レベルです。衛生環境は世界でおそらく最も優れているのではないかと思います。感染予防の知恵も、医療の技術もあり、貢献できると思います。しかも、日本はアメリカの軍事同盟国です。ですので、その立場を利用して、アメリカとの協力関係の改善に向けて、努力する余地はあります。さらに、アフリカやインド、ブラジル、東南アジアへの支援に関して果たすべき役割は非常に大きいのです。
例えば、インドと日本の相互補完関係は顕著です。インドには非常に優秀なIT人材、素晴らしい頭脳の持ち主が多くいます。人口も多いです。これは日本にとっては喉から手が出るほど必要な資源なのです。一方インドでは製造業のノウハウが不足しています。インドの人口の8億人が農民です。多くの人が貧乏です。このままでは、インドの人口ボーナスはボーナスにはならず、インドの負担になるだけです。インドは製造業のノウハウを欲しています。これに関しては、日本が協力できるのです。
また、ブラジルはジャイル・ボルソナーロ大統領の対応のせいでひどい状況になっていますが、もともと高いポテンシャルを持つ国です。ここで指摘したいのは、ブラジルで最も多い外国人は160万人の日系人だということです。彼らが活躍しているこの国と協力しない手はないのです。このように、日本は世界的視野を持って目を覚ますべきですね。そして、医療を中心として世界史になかった協力体制を構築するために努力すべきだと思います。
●情報化のメリットを活用して感染予防と経済回復の両立を
2点目として、情報化のメリットを活用した感染予防と経済の繁栄の両立する戦略を模索すべきだと思います。講義では、情報化の進展によって人に対する支配が進み恐ろしい状況になることを強調していますが、反面情報化には大きなメリットもあります。例えばコロナウイルスは人間が接触すると感染するという嫌なウイルスですよね。ですので、接触を減らすことを目指してきた結果、経済に悪影響があると繰り返してきました。しかし、接触を増やさずとも経済を回復させるメカニズムはつくれると思うのです。
例えば、いくつかの企業では大半の人々を在宅勤務にして、リモート会議を行うなど、接触せずとも経済活動を再開できるようになっています。学校の教育もオンライン授業に移行してしまえば良いと思います。ハーバード大学はそのような方向に向かっています。そのためには日本の千何百万というあらゆる家庭にWi-Fiを設置するなど、情報通信環境の整備を進める必要があります。そのために必要な予算は、数千億円程度なのです。Go Toキャンペーンなど進めていてはいけないと思います。
次に、医療に関しても、10MTVでも講義をした堀江重郎先生が指摘されている、ダヴィンチという医療ロボットがあります。このロボットは、患部にカメラを近づけて3Dで評価できるのです。それから、ダヴィンチの手になるデクステリティは、人間の指の10倍も...