●世界に広がる新型コロナウイルスパンデミック
新型コロナウイルスパンデミックの第一波は、2020年7月現在、先進諸国を一巡しました。特に6月以降は、その多くは貧困に喘ぐ発展途上国において、急速に感染の拡大が進みました。これらの国々は人口も多い上に、とりわけ貧困層の間では衛生状態が非常に悪く、医療サービスも貧弱で、経済的にも苦しい状況です。このままコロナウイルス感染が拡大していくと、これまでに想像もしなかったほどの大規模な感染に発展する可能性があると思います。
もしそうなれば、先進諸国にも必ず広がり、地球全体を包むような大規模なパンデミックになるという危険性があるのです。地球社会がこの大感染にどのように立ち向かうのか、という点が問われると思います。
人類はこれまでに何度も同じようなパンデミックを経験してきています。例えば14世紀のペストは、数十年間蔓延が続き、欧州の人口の約3分の1が亡くなりました。これがきっかけとなって宗教革命が起き、人々は中世の束縛から解放されて、ルネッサンスが到来し、やがてそのことが産業革命への発展につながったともいわれています。
より最近の事例では、約100年前のスペイン風邪が挙げられます。この際には、地球全体で4千万人が犠牲になったという話もあります。この同時期にロシア革命をはじめとして、社会主義が台頭してきました。資本主義の牙城であったイギリスでは、これまでの資本主義の限界を感じて、修正資本主義の方向に向かいました。その転換が功を奏したかと思えば、世界大戦へと世界は向かうことになりました。ともかく、こうした経験をわれわれは再度確認しておいた方が良いと思います。
●パンデミックの直前の世界を俯瞰すると4つの傾向があった
今回もおそらく大規模なパンデミックとなるので、この新型コロナウイルスパンデミックは世界をどのように変容していくのか確認しておく作業が必要です。今回の私の報告では、このパンデミックの直前の世界に関して、4つの傾向を着目してお話ししたいと思います。
1つ目はアメリカの指導力の低下です。第二次世界大戦後、アメリカが強い指導力を発揮してきましたが、このアメリカの国際的指導力が近年急速に低下しています。トランプ政権に至っては、その役割を放り出すようになってしまいました。これは1つの大きな傾向ですよね。
2つ目はこの20年から30年で、デジタルトランスフォーメーションが非常に進んだことが挙げられます。これも文明史に残る大規模な技術革新なので、大きな影響を及ぼしていると思います。さらに、3つ目として、このデジタルトランスフォーメーションを土台として、中国が台頭してきました。4つ目ですが、その台頭を見ていたアメリカが反応したことで、米中の覇権対立が起きています。このような4つの初期条件があったと思います。
このような世界に新型コロナウイルスパンデミックが起こりました。この問題は、世界に大きな衝撃を与えたと思いますが、その中でも大きな変化として3点挙げることができます。まず、米中対立が大きく先鋭化しました。加えて、このパンデミックによって不況となりますが、これを機に世界の分断が進みます。それによる、世界経済の収縮という問題に、現在直面しています。さらに、デジタルトランスフォーメーションには良い面もありますが、反面、情報が人を支配するという傾向があります。その傾向が残念ながら強くなってきています。
●世界を再構築するために必要な5つの提案
このような状況の中で、ダークエイジを迎えると問題です。この悪夢を押しとどめて、多くの人にとってよりよい世界を構築するために必要なこととして、今回は5つの提案をしたいと思います。
1つ目ですが、医療の安全保障体制を、全世界が協力してつくらなければなりません。また、コロナウイルス対策は長期戦となるので、コロナウイルスと共存しながら経済も繁栄するというシステムをつくる必要があります。
それから、情報化の進展とともに情報が人を支配する側面が強くなってきていますが、この流れを食い止めて、人が情報を使うという人を主体とする情報化という流れにするためのルールつくりに関しても言及します。
加えて、世界経済の分断は、経済全体の収縮に繋がるので、何としてでもその流れを押しとどめて、自由貿易体制を堅持し強化する必要があります。その方法に関しても議論したいと思います。
最後に、大変重要なことですが、地球環境の問題が深刻化しています。地球環境を基礎として初めて人類は存在できるので、環境をどのように保全していくかという国際戦略が必要です。この点に関しても、最後に提案したいと思います。