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[Ⅰ] はじめに
【日本、当初は緩やかな感染増加】
◆新型コロナウイルス感染が世界で猛威をふるっている。
◆日本は世界諸国のなかでは、感染が始まった2月初めから3月半ばまでは、比較的緩やかな増加に止まっていた。
【3月下旬から感染加速の兆し】
◆しかし、3月下旬から東京を中心に感染者の増加がにわかに加速する気配を見せはじめた。
◆小池百合子都知事をはじめ東京都の関係者は、この傾向がオーバーシュート(感染爆発)に発展するのではないかとの危機感を強め、人々に危機感を訴えるとともに、感染急増を抑えるために人々に外出の自粛要請と人々が集まる商業施設や娯楽施設などの休業要請を含む政策的対応を志向した。
【政府、緊急事態宣言発令、緊急経済対策発表】
◆感染拡大は他の府県でも加速しはじめたので、危機感は広く共有されるようになり、こうした情勢を受けて、安倍政権も遅ればせながら、4月7日に、緊急事態宣言を発令し、同時に、緊急経済対策を発表した。
◆緊急事態宣言は、地方自治体の首長に、人々に外出自粛を、また人々が集まる大規模イベントの中止や商業・娯楽施設の休業要請などに法的根拠を付与。
【強制も罰則も補償もない日本型対応】
◆緊急事態宣言発令を受けて東京をはじめ地方自治体は、人々に外出の自粛を、レストランや商業施設に休業を要請した。
◆他方、諸外国で実施しているようなlockdown(都市封鎖)や罰則をともなう外出規制はなく、交通機関は通常通り運行、生活必需品の買い物は規制なしという内容。
◆日本のこうした緊急事態宣言の具体的内容を見て、欧州や韓国など諸外国のメディアから「日本の緊急事態宣言は形ばかりで内容はなく、効果は上がるのか」と多くの批判と疑問が寄せられた。
◆また、休業するレストランや商業施設などに対して国は休業補償をせず、東京都など若干の自治体が少額の協力金を支払うにとどまった。
【日本型モデルは機能するのか:シミュレーション分析】
◆これまでは検査も医療防具も最少ながら諸外国に比べ、感染の拡大は最少に止められてきた日本型のやり方が、これからも通用するのか、そして感染を収束させることができるのか。最近の感染者数の急速な増大傾向をふまえると、予断は許さない。
◆また、人々の接触を抑制する感染抑制策が経済にもたらす影響、特に世界全体の経済が収縮するなかで、日本経済にどのような影響が及ぶかも予断を許さない。
◆感染拡大は収束するのか、また経済への影響はどうなるのか。この問題を、これまでのやり方の延長線上の「シナリオA」と、他方、迅速かつ抜本的な政策にもとづく展開という「シナリオB」を対比して整理し考えてみたい。
【これまでの日本型(シナリオA)】
◆これまでの日本の政策対応は、逐次小出し政策だった。これは当面の経済コストは少ないかもしれないが、感染拡大を効果的に抑制できなければ、感染拡大は長期化し、また第2波、第3波の感染拡大があるかもしれない。
◆その結果、長期にわたってサービス産業の衰退と産業基盤ならびに人的資本の劣化が進み、経済コストは長期的には莫大となる可能性がある。
【迅速・抜本的政策にもとづく日本型(シナリオB)】
◆感染拡大を一定目標期間内で極小に抑えるための迅速・抜本的政策対応によるシナリオ。
◆目標期間内の実質的強制力ある休業要請と外出規制。休業するサービスや商業施設には休業期間の収入を補償。そのため就業機会を喪失もしくは所得の減る勤労者に適切な所得補償。
◆これは短期的には大きな経済コストになる可能性があるが、その結果、感染の収束が早まり、産業基盤と人的資本の劣化が回避されれば、日本経済の衰退は防止され長期的には経済コストは管理可能な範囲にとどまる。
【世界経済は全世界同時大不況を前提】
◆コロナパンデミックは全世界を覆い尽くしており、世界各国の感染拡大抑止対策は各国経済の縮小、国際交易の断絶などから当面、世界同時大不況(2020年4月のIMFシナリオの3ないし4)に陥ることを想定。
◆この状況下では、日本経済が輸出で活路を見出す可能性は両シナリオとも考えられないことを前提とする。
【日本型モデルは有効か?】
◆日本型モデルは、都市封鎖、罰則、強制はなく、もっぱら国民の理解と自覚そして行動の自己抑制に依存する。それは世界でもユニークな対応モデル。
◆そのモデルが有効になるためには、それを支える抜本的、強力そして迅速な政策支援が必要。
◆そうした政策の支えのない日本型モデルは単なる「精神論」に陥り、結果的に日本経済を衰退させる。日本型モデルを成功させるには日本型の強力な政策の執行が不可欠。
[Ⅱ] 新型コロナウイルス感染展開のパターン
◆本講義の主眼は、コロナパンデミックが世界を大混乱に巻き込むなかで、“日本型モデル”もしくは日本型のやり方で感染...


