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このままの対策を続けると経済基盤を失い、大停滞の恐れも

徹底検証・日本のコロナ対策(7)「現状維持シナリオ」の危険性

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
第7話と第8話で、実際に対策を進めていくとどうなるか、島田晴雄先生が経済シミュレーションを行っていく。まず検証するのは「シナリオA」。すなわち、現状の対策を続けた場合に、感染の抑制がどうなり、中期的にどれほどの経済コストになるかの分析である。見えてくるのは、現状のような「小出し逐次政策対応」を続けていった場合、感染抑制も中途半端になり、さらに倒産、廃業、失業が増大して経済基盤が劣化し、経済活力が失われる可能性である。
(本講義では、島田晴雄先生が作成されたレジュメ内容を本文として掲載いたします。そのため、一部、動画では触れられていない部分もありますが、資料としてご活用いただければ幸いです)(全9話中第7話)
時間:06:13
収録日:2020/05/19
追加日:2020/05/23
≪全文≫
[Ⅴ] 感染抑制と政策対応の経済シミュレーション
◆感染抑制政策と緊急経済対策が、感染の抑制と中期的にどれほどの経済コストになるかをわかりやすく示すために、二つの対照的なシナリオでシミュレーションを試みる。
◆中期的とは、これから2年ほどの期間。それ以降には新型コロナウイルスに対するワクチンが開発され、世界の人々に広く提供される可能性があると想定。以下のシナリオはそれ以前の状況での感染抑制と経済コストのあり方を対照的に示す。


《1.シナリオA:小出し逐次政策対応と感染・経済コスト》
◆日本政府がこれまでに推進してきた感染抑制政策と緊急経済対策をシナリオ化。

【その特徴は以下】
(1) 感染抑制策は日本の「感染症法」にもとづく伝統的な感染症対策を踏襲。
◆国立感染症研究所を中心に、地方衛生研究所と、全国市町村に設置された保健所のネットワークを駆使して、感染者の行動追跡からクラスターを究明し、濃厚接触者などの健康・行動調査を通じて感染拡大を抑制する方法。
◆これは感染対策が小規模(全国で感染者が1000件程度)段階では有効だが、感染者が15000件(2020年5月初旬)にもなり、その大半の感染経路が不明の状況になると機能しがたい。

(2) PCR検査の数量がかぎられ、増強のスピードが極めて遅い。
◆PCR検査を徹底して実行し、成果を収めた先行例として韓国があり、4月頃からドイツなど欧州諸国やアメリカなどが1日10~20万件規模で検査を実施している。
◆日本は安倍首相が早くから1日2万件を主張しているが、5月初旬段階では8000程度。検査の数量限定と拡大の遅れは、緊急事態宣言体制の解除にともなって発生しうる感染再拡大(第2波、第3波)に対応するデータ基盤の乏しさから、再拡大を防止する対応が不十分で感染再発が起こりやすいリスクがある。

(3) Social distancing を徹底するための休業の補償が不十分。
◆効果的なワクチンが開発され国民に広く提供されるまでは、新型コロナウイルス感染抑制策は感染者の入院隔離を除けば、もっぱらSocial distancing(接触しない)、Self-quarantine(外出自粛)しかない。諸外国は外出を罰則で規制している例が多いが、日本は強制力のない自粛要請のみ。
◆Social distancing を徹底するには、人々が出かけ、集まる先を閉じるほかない。そのためには飲食や集合できる施設を閉店するしかない。日本ではそれらの施設に休業を要請してきたが、休業中の収入に対する補償はほとんどない。これら施設の大部分は小零細事業であり、資金力は極めてかぎられる(1~2カ月程度)。確かな休業補償がなければ、多くが倒産、廃業しかねない。
◆そして多くの事業者と労働者(失業保険非加入者も多い)は所得を失い、困窮者になる。結果として経済基盤が劣化し経済活力が失われる。

(4) 緊急経済対策の発動の遅れと内容の不的確。
◆緊急経済対策は、4月7日の緊急事態宣言と同時に発表されたが、感染拡大にともない、改正特措法にもとづき自治体等の感染抑制策に法的根拠を与える緊急事態宣言の発令を求める声が3月初め頃から高まっていたにもかかわらず、政府の対応は1カ月も遅れ、同時に経済対策の発表も遅れたため、迅速さが求められる政策発動が大きく遅れたことは問題。
◆発表された対策には緊急対応として医療支援のほかに所得が急減した家計や小零細企業への所得補償が掲げられたが、所得急減家計への補償は実効性がなく、結局、国民全員に一律10万円給付という政治決着になり、緊急対策として本来救済すべき所得急減家計への集中支援はなおざりになった。
◆総額108兆円という超大型対策の“真水”は30兆円あまりであり、多くの事業経費がV字型回復のための対策として、観光地への“go to”プロジェクトなど、緊急対策とは関係のない意味不明な内容。

【シナリオAは以上のような特徴を持つ、これまでの日本政府の対応のしかたを前提として、以下のシミュレーションをする(シミュレーションの時間視野は2020年ならびに2021年)】

(1) 直接コスト
◆「緊急経済対策」(2020年4月7日):20.5兆円
・その内容は:
◎アビガン確保やマスク配布、自治体交付金:1.8兆円
◎中小企業資金繰り対策:3.8兆円
◎中小企業などへの給付金:2.3兆円
◎特定定額給付金(国民1人一律10万円):12.6兆円
◆2020年4月7日発表の緊急経済対策に加えてさらに大型対策が実施される可能性もあるがここでは4月7日の対策を前提。

(2) 間接コスト
◆緊急事態宣言下の休業要請は主として飲食、集会、移動などの産業の収益ならびに関連勤労者と事業者の所得を著しく削減するので、それらは国民が広く負担する間接コスト。
〈参考〉
・サービス業の事業所得:134.9兆円(2019年)
 JRと2大航空会社の年間売上高:10.8兆円(2019年)
(詳細はシナリオBで述べる)
◆シナリオAでは休業補償が...
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