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●「第1波」で感染者数が減った最大の理由とは?
―― 皆さま、こんにちは。本日は小宮山宏先生、曽根泰教先生をお招きしまして、新型コロナウイルスの最新状況について講義をお伝えしたいと思います。先生方、よろしくお願いします。本日収録日が2021年1月8日で、昨日1月7日に2回目の緊急事態宣言が出されましたが、この緊急事態宣言について、どのようにお考えかを、まずお聞きできればと思います。小宮山先生、いかがでしょうか。
小宮山 このタイミングで宣言を出すのは、ある意味で、当然の状況かもしれないと思います。しかし、いままで日本がどのような対応をしてきたかをよく把握したうえで議論をしたほうがいいと思うのです。
以前、緊急事態宣言に対してテンミニッツTVでやったパネルを出してお話ししたいと思います。これは、(第1回目の)緊急事態宣言を出したときに発表されたデータです。感染の状況について、いま発表されているのは「報告された日」の感染者の数ですが、実際には報告されているより前に感染しているわけですね。ですから、「お医者さんが調べて、いつ感染したか」ということを換算した「感染日」の感染者数を記したグラフで見たほうが、どういうことをやったときに効果が上がったのかがわかる。たとえば途中には、一斉休校をやったとき、緊急事態を宣言したときなどのイベントが書いてあって、それがどういう影響を及ぼしたかがよくわかるわけです。
これで見ると明確なのは、(感染者数が)下がってきたときに何が起きたかというと、志村けんさんが亡くなったときなのです。このときに日本の人たちが、おそらく「コロナはけっこう大変だ」ということを意識したのだと思う。そういう、アナウンス効果が非常に大きかった。
そして実をいうと、それからしばらく経ってから第1次の緊急事態宣言を出しているのですが、このときには数値が落ちてきていたのです。いわゆる実効再生産数というものがあります。1人が1人にうつしていく状況(実効再生産数=1)であれば患者数は一定になり、それが1を下回れば患者数が減っていくことになります。よく使われるモデルの指標ですが、その実効再生産数も、(志村けんさんが亡くなって以降)1を割っていて、その後、緊急事態宣言を発出しても一定でした。
つまり、はっきりいうと、(緊急事態宣言は)「効果がなかった」ということです。すでに、志村けんさんが亡くなったあとから、日本人は非常に注意をして、「三密を避ける」などの行動を取っていたということです。
このときに効果のない緊急事態宣言を使ってしまった。これは切り札ですから、今回、その効果をどうやって出していくかが難しい事態になっている。それがいまの状況だと思います。
●本当に「時短」で対処できる問題なのか?
―― ありがとうございます。曽根先生は、第2回の緊急事態宣言について、どのようにお考えでしょうか。
曽根 緊急事態宣言で「訴えたいこと」と、「実際に起きること」とに、差がそうとうあると思います。
これで感染者を減らすことを考えているわけですが、では、そこで具体的な方法や政策として、何をやるか。たとえば、(2回目の緊急事態宣言では)「午後10時まで開いていた飲食店を、午後8時までにする」といわれましたが、それで、どのくらい効果があるか? 感染者がどれだけ減るか? そこは国民の多くが疑問に思っている点だと思います。
大枠でいって、「時短で対処できる問題ですか?」という疑問が持ち上がります。手法としては、検疫、あるいは外出禁止、移動制限、接触禁止などの非常に古典的な手法、つまり、かつての公衆衛生の手法を、いまでも使っています。
しかし、これだけ新しい技術や医療の方法が発達しているのだとすれば、「それと組み合わせたメッセージ」「それと組み合わせた手法」を、新たに発出したほうが良いのだろうと思います。
それともう一つ大きな点は、現在起こっている新型コロナウイルスのいちばん大きな特徴は、無症状者と軽症者が医療機関に行って自覚症状を訴える前に、ウイルスをばら撒いてしまうということです。それがどのくらいばら撒いているのか、どういう感染経路があるのかは、いままでの情報のなかでは、あまりまだ、よくわかっていない。それがあるかぎりは、感染は広まってしまいます。
そういう意味でいうと、日本の医療はよくやってきた、というのはそのとおりです。いままでの体制、仕組みのなかでは患者の面倒をよく見て、死者数も少なかった。そこは認めるのですが、ただ、このままの体制で今後、増大する感染者に対応できるのか。いろいろなクラスター分析や、重症者・高齢者中心の医療体制が確立はされているが、もっとやるべきことがあるのではないか、というのが、いまの評価です。


