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「安倍首相の側近主導の急ごしらえ対策?」に問題山積

徹底検証・日本のコロナ対策(5)緊急経済対策の内幕と陥穽

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
安倍首相が緊急経済対策の策定を指示したのは3月17日。だが、公式にその経済対策が発表されたのは4月7日であった。しかもその対策は、複雑で実施が困難な現金給付策、総額100兆円超ではあるものの政府の財政支出は39兆円という「かさ上げ」された内容、しかも緊急対策なのに収束後のV字回復対策まで盛り込まれるなど、多くの問題含みのものだった。そのため、閣議決定までした原案が取り下げられ、一律10万円給付に変更されるなど「ドタバタ劇」が繰り広げられる。結果的に、外出や休業の自粛要請も後手後手、加えて現金給付がさらに遅れるという、とても緊急対策とはいえぬものになってしまった。
(本講義では、島田晴雄先生が作成されたレジュメ内容を本文として掲載いたします。そのため、一部、動画では触れられていない部分もありますが、資料としてご活用いただければ幸いです)(全9話中第5話)
時間:06:51
収録日:2020/05/19
追加日:2020/05/23
≪全文≫
《5.緊急経済対策の内容と問題点》
【緊急経済対策の内容と問題点】
◆緊急事態宣言と同時に発表された緊急経済対策の骨子は以下。

◎事業総額総計:108.2兆円
◎財政支出:39.5兆円
・アビガン確保やマスク配布、自治体交付金:1.8兆円
・中小企業資金繰り対策:3.8兆円
・中小企業などへの給付金:2.3兆円
・減収家計への給付金:4.0兆円
(これは補正再決定で当初の3倍、8.9兆円増の12.9兆円に)
・財政投融資:約10兆円
(日本政策金融公庫の危機対応融資や特別融資:9.3.兆円)
(日本政策投資銀行の大企業向け出資ファンド:0.2兆円)
・19年度補正予算の未執行分:9.8兆円
◎経済対策にともなって支出される民間資金など:42兆円
◎企業の税や社会保険料の支払い猶予:26兆円

◆108兆円というGDPの2割に及ぶ超大規模対策だが、おそらく安倍首相の側近主導による急ごしらえの対策と思われ、中身には多くの問題。
◆国民の関心事でもあり、経済政策としても重要な「減収家計への給付金」には4兆円計上されているが、これをどの階層にどのように給付するのか不明。(これは項をあらためて検討)。
◆休業補償の予算が計上されていない。安倍首相はじめ政権幹部は休業補償は産業・企業によって事情が異なり「不公平」になるから、それよりも国民への現金給付をする、と説明しているが、なぜ不公平なのか不明。本来、要請されて休業する事業者の事業継続を支援する休業補償こそが“公平”であり、経済活動を維持するために不可欠なのではないか。
◆緊急経済対策は医療対策や中小企業の経営支援など緊急性の高い政策と、コロナ克服後の経済のV字型回復を支援する対策の両面構成とされているが、なぜ”緊急”経済対策に将来のV字型回復への支出が計上されるのか、意味不明。それは緊急事態の克服が見えてきてからにすべきでは。
◆また、V字型回復支援関連で民間資金が42兆円など、対策規模の見かけ上の“かさ上げ”が行われているのはわかりにくくて問題。

【減収事業や家計への給付はどう実施?】
◆総額4兆円の国民給付の内容は以下のように発表された。
◎中小、個人事業主向け給付は売上半減が条件
・中堅、中小企業:最大200万円
・個人事業主:最大100万円
(個人業主にはフリーランスも含まれる)

◆世帯が給付を受けられる基準は複雑(Fplanner助言による)
(低所得世帯/収入急減世帯)
◎単身会社員 100万円以下/200万円以下
◎3人家族 205万円以下/410万円以下
(会社員、主婦、子ども)
◎2人家族 155万円以下/310万円以下
(会社員、子1人)

◆この対策は対象の選別や給付の額についての考え方の基準が不明で、極めてわかりにくい。これは給付を期待する多くの人々の不満を呼び、下記の”ドタバタ劇”の原因となった。
◆また、これを実行することは、おそらく技術的にも極めて困難と想像される。たとえば、売り上げが急減する事業主や、所得が急減する世帯などに対し、自主申告にもとづいて給付するとしているが、給付が妥当との判断の根拠となる申告データの信憑性をどう確認するのか。多くの虚偽申告をどう識別するのか。
◆マイナンバーの普及と銀行口座との連結が達成されていないなかでの給付の判断と執行は、事実上、困難もしくは莫大な時間がかかって実効性がない。

【原案取り下げと一律10万円給付へのドタバタ劇】
◆緊急経済対策は4月半ばに「補正予算」として確定し、実施に入る予定だったが「減収事業家や家計への給付」がわかりにくいとの批判が多く寄せられ、与党自民党内からも、また公明党からも強い批判と一律給付への要望があり、急遽、当初案を取り下げ、国民全員に一律10万円給付とする変更(ドタバタ劇)があった。
◆発端は4月14日の二階俊博自民党幹事長の発言。「一律10万円を求める切実な声がある。できることは速やかに実行を」。
◆公明党山口那津男代表、我が意を得たりと急遽決まった15日の安倍首相との面会で強硬主張。もともと公明党は、立憲民主と同様、3月末に一律10万円案を提案していた。
◆30万円の政府案発表後、支持者から1.5万通のクレーム、「内閣の評判が悪い、危機的状況だ」。安倍首相は「補正を成立させたうえで、方向性を持ってよく検討」と応じた。
◆しかし、山口氏は4月16日の朝も電話で食い下がった。「できねば野党案に同調も」と。
◆安倍首相は折れた。麻生太郎財務相(リーマン1.2万円の定額給付金で効果なしの体験)は疑問を呈したが、安倍首相は麻生財相の懸念を押し切り、岸田政務調査会長に10万円案を指示。
◆閣議決定した補正予算の組み換えは異例(歴史上3回のみ)

【補正予算(緊急経済対策)の再決定(史上3度目)】
◆減収家計(約1300万世帯)への30万円給付=約4.4兆円を取り下げ、国民全員一律1人10万円とした結果、家計向け給付は8.9兆円増となった(総額12兆8800億...
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