中東におけるコロナ問題
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
中東でコロナ対策がうまく機能していない理由
中東におけるコロナ問題(1)経済的影響と中東諸国の現状
政治と経済
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
イランは中東における新型コロナウイルスの一大感染源と見なされており、実際その影響は経済的な大打撃を伴って、中東全域および周辺諸国に波及している。中東では各国のコロナ対策がうまく機能していない。その理由として挙げられるのは、中東諸国には「国家」という枠組みの意識が希薄な点である。多宗教、多宗派、多民族国家が多い中東では、統一国家としての統治力が低く、コロナ対策よりも各勢力の維持、強化が優先されてしまうのだ。(全3話中第1話)
時間:11分58秒
収録日:2020年9月1日
追加日:2020年11月3日
≪全文≫

●コロナ禍の時代にひびく詩人サアディーの警句


 皆さん、こんにちは。

 イランの中世の大詩人にサアディーという人がいます。サアディーは『果樹園』という名作の1つの中で、このように述べています。「苦難に遭遇する日がくるまでは誰も幸福な日の価値は分からない」。このように述べたサアディーの警句は、まさに新型コロナウイルスの感染拡大で亡くなった人々を追憶する私たち日本の市民にも、切々とひびくのではないでしょうか。

 そして、このイランの詩人サアディーの偉大さは、彼の詩の中にコロナ禍を克服するための心構えともいうべきものが、既に含まれていることであります。こう述べています。「熱で寝たり起きたりする人のことを考えよ。病人は夜の長さを知るからである」ということです。つまり、そういう病人の苦しみ、そして病人が過ごしていくゆっくりと休むこともできない夜のつらさ、こういうことを思いやらなければならない、というわけです。


●イランをはじめとする中東の感染拡大と経済的影響


 しかしながら現代を見てみると、肝心の現代のイランは中東における一大感染源となっており、もっと早くからサアディーの箴言に耳を傾けるべきだったのではないでしょうか。イランの感染者は2020年8月31日の時点(このお話をしている最新の時点)では、約37万5千人を数えています。これは前の日と比べて1642人も増えているのです。また、死者数は8月31日の時点で約2万1千人を数えています。前日比109人の増加です。

 サウジアラビアとバーレーンはこのようにGCC(Gulf Cooperation Council、湾岸協力会議)の国々、すなわち自分たち2国にクウェートやアラブ首長国連邦、カタール、オマーンを含めた国々の間に、新型コロナウイルスによるコロナ禍を拡大させた責任は誰にあるかと問うて、はっきりとイランを名指ししているわけであります。

 もっともコロナ禍が起きたからといって、中東の地政学的な重要性は変わることはありません。ただ、その優位性を生かした経済に大きな損害が出ているのは深刻です。2020年のGDPの成長率は、カタールのマイナス4.3パーセント、サウジのマイナス2.3パーセントをはじめ、軒並みマイナス成長であります。そして、サウジアラビアとライバル関係にあったロシアとの原油の価格競争の問題にひとまず手を打ち、原油の協調減産に両国が合意した後も、世界市場におけ...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博
トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(1)国際秩序の転換点と既存秩序の崩壊
経済秩序や普遍的価値観を破壊し、軍事力行使も辞さぬ米国
佐橋亮
政治学講座~選挙をどう見るべきか(1)選挙の意味
選挙と政治権力…「選挙に勝つ」とはどういうことか?
曽根泰教
危機のデモクラシー…公共哲学から考える(1)ポピュリズムの台頭と社会の分断化
デモクラシーは大丈夫か…ポピュリズムの「反多元性」問題
齋藤純一
「新しい資本主義」の本質と課題(1)新自由主義と『21世紀の資本』
新自由主義からの時代背景から「新しい資本主義」を問う
柳川範之
独立と在野を支える中間団体(1)「中間団体」とは何か
なぜ中間団体が重要か…家族も企業も学校も自治会も政党も
片山杜秀

人気の講義ランキングTOP10
続・日本人の「所得の謎」徹底分析(1)各国の財政と国民負担
日本と各国の比較…税負担は低いが社会保障の負担は高い
養田功一郎
経験学習を促すリーダーシップ(2)経験から学ぶ力
米長邦雄のアンラーニング、弟子の弟子になってV字成長
松尾睦
海底の仕組みと地球のメカニズム(1)海底の生まれるところ
地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か
沖野郷子
数学と音楽の不思議な関係(4)STEAM教育でつくる喜びを全ての人に
世界で最もクリエイティブな国は? STEAM教育が広がる理由
中島さち子
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(1)著書『外交とは何か』に込めた思い
外交とは何か…いかに軍事・内政と連動し国益を最大化するか
小原雅博
「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率
各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴
片山杜秀
未来を知るための宇宙開発の歴史(9)宇宙開発を継続するための国際月探査
「国際月探査」とは?アルテミス合意と月探査の意味
川口淳一郎
第2の人生を明るくする労働市場改革(1)日本の労働市場が抱える問題
シニアの雇用、正規・非正規の格差…日本の労働市場の問題
宮本弘曉
大統領に告ぐ…硫黄島からの手紙の真実(4)百年後の日本人のために
百年後の日本人のために、共に玉砕する仲間たちのために
門田隆将
「アカデメイア」から考える学びの意義(2)プラトンの学園アカデメイア
プラトン「アカデメイア」の本質は自由な議論と哲学的探究
納富信留