●感染拡大の背景にある独裁者3タイプ
皆さん、こんにちは。
前回に引き続き、本日は中東の新型コロナウイルス拡大による大きな禍、コロナ禍の問題について、国家という問題を中心に考えてみたいと思います。
現在の中東において国家としてまとまりを維持している国々においても、現実には一種の独裁者、その定義はいろいろ分かれますが、つまり特殊な独裁者の締めつけによって国民を統合していた政治の断面というものを、はしなくも如実にさらけ出した点に、今回の悲劇的な疾病、感染症の拡大の政治的な本質があります。
しかも、深刻なのはこの各種の独裁者統治が必ずしも感染症危機の早期解決につながらなかった点にあります。3人の独裁者を取り上げてみましょう。
トルコの選挙で合法化された「世俗的独裁者」と呼んでおきましょう。レジェップ・タイップ・エルドアン大統領のことです。この世俗的独裁者と比べて特徴的なのは、イラン・イスラム共和国憲法によって最高指導者として制度化された「神権的独裁者」と呼んでおきましょう。神権的独裁者であるアリー・ハーメニー氏を挙げることができます。そして、もう1人はワッハーブ派というスンニ派の一番厳格な教義を信じる、ワッハーブ派の宗教的権力とサウド家という世俗的権力。このワッハーブ派の宗教的権力とサウド家の世俗的権力をまとめあげた政教一致型と申しましょう。政教一致国家サウジアラビアの「超俗的独裁者」と定義しておきたいと思います。つまり、俗権あるいは世俗的な政治性というものを超越し、しかしそこに宗教的権力を溶かしこんでいる、そうした独裁者がムハンマド・ビン・サルマン皇太子です。
この3人はそれぞれ独裁者としての性格が違いますが、コロナ禍によって統治基盤が実は比較的弱い、ぜい弱であるということを露呈したというのが、今回のコロナウイルスの感染危機による政治状況の特徴ではないかと思われます。
●生物学的戦争、経済テロリズムなど各種陰謀論が横行
もう1つ彼らに共通しているのは、一種の陰謀史観、あるいは陰謀理論によって自分たちの政治責任を回避しようとする傾向が強いことです。ハーメニー氏の住んでいるのはテヘランではなくて、そこから西に行ったコムという町(ペルシャ風に発音するとゴム)が、このコム、あるいはゴムにおいてコロナが流行したことが知られています。
これはゴムに滞在している、そして中国と行き来していた中国人留学生や中国人の労働者たちがうつしたか、あるいは中国から帰国したイラン人の宗教者、もしくはイラン人のビジネスマンが感染源であったとされる。それが普通の解釈ですが、イランの宗教権力やイラン政府は必ずしもそうした見方を取っていません。
例えば、革命防衛隊のホセイン・サラーミー司令官は、コロナ禍をアメリカがしかけた生物学的戦争(英語でいえばBiological War)だとし、そしてムハンマド・ジャヴァド・ザリフ外相もアメリカの経済的テロリズム、すなわち経済制裁のことですが、この経済テロリズムを補完するためにアメリカがしかけた医療テロリズムだと、このように説明しています。
イランと断交中のサウジアラビアとバーレーンは、イランによる湾岸諸国、湾岸地域に対するこれは生物学的侵攻(Biological Aggressionだ)と言って、今度はイランを責任者だと呼んでいるわけです。イランはアメリカに責任があると言い、そして湾岸諸国のうちサウジアラビアとバーレーンはイランに責任があると非難しているのです。
トルコのエルドアン大統領と親密なジャーナリストにカラギョルという人がいます。このカラギョル氏にいたっては、新型コロナウイルスとは西欧と対立し、アメリカと対立している4カ国、すなわちトルコ、イラン、中国、ロシアの経済を破壊する試みから生まれたという解釈を事細かにしていて、そのもともとは実験室でつくられたというのです。
●コロナ禍を欧米の治安粉砕の機会と捉えるIS
似たようなことはパレスチナ自治政府の首相、ムハンマド・シュタイヤ氏によっても語られます。パレスチナのヨルダン川西岸のパレスチナ自治区にコロナを感染拡大させたのは、イスラエル軍の兵士である。それから十分にPCR検査をしないパレスチナ人のイスラエルとヨルダン川西岸との往来を媒介にして、ヨルダン川西岸にコロナが拡大したと語っているのも、似たような解釈です。しかし、シュタイヤ首相はパレスチナ人に対して、どうして自分たちは徹底してPCR検査をしないのか、というようなことには触れていないのです。
他方、もっと極端なのはイスラム国ISやガザのイスラム軍団といった過激派組織です。彼らは、「新型コロナウイルスは実は自分たちにとってよりもヨーロッパ、アメリカにとって最悪のことだ。すなわち、これは十字軍最悪の悪夢だ...