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新型コロナの影響で米中関係は史上最悪といわれている

コロナパンデミックと闘う世界と今後の課題(11)米中対立の先鋭化とそのリスク

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
新型コロナウイルスの感染拡大は、米中対立を先鋭化させた。中国では強権的な対応によってすぐに感染拡大を抑え、世界各国にその成果を喧伝したが、アメリカはそうした中国の対応に対する非難を強める。また、コロナ対策としてソーシャルディスタンスの確保やロックダウンなどにより需要と供給が収縮している。これにより、世界経済の分断や、医療インフラが十分に整備されていない国での感染爆発などの可能性が考えられる。(全12話中第11話)
時間:09:40
収録日:2020/07/16
追加日:2020/09/05
≪全文≫

●中国の新型コロナウイルスに対する強権的な対応


 新型コロナウイルスの蔓延によって、3つの大きな変化が起きました。1つ目は米中対立の度合いが悪化の方向へ増幅しました。中国では世界で初めての新型コロナウイルスの感染者が発生しました。アメリカは、中国に対して当初発生した情報を隠していたという批判を行いました。例えば、中国で新型コロナウイルスの感染者が発生したことを李文亮という若い医師がネットで公表しましたが、これを無視しています。李氏はその後、新型コロナウイルスに感染して亡くなっていますが、中国のネット空間では、なぜ李先生の訴えを黙殺したのかという批判が高まり、同時に習近平体制に対する批判も増えました。

 感染が拡大する兆候が見られるようになると、徹底的に武漢という大都市を全封鎖するという荒療治に出ました。1か月半で拡大を抑えましたが、今度はその成果をさまざまな形で世界に喧伝するようになりました。それに加えて、イタリアなどは感染拡大する中でEUからも支援が得られないという状況にありましたが、医療の人材や資材を大量に提供するなどの活動にも乗り出しました。

 また、中国はこのところ、非常に強権的な政治体制になりつつあると思います。例えば2020年7月から施行された香港国家安全法は非常に曖昧な法律ですが、非常に広範囲な発言が対象となります。連行された場合には、DNA検査まで実施されるわけです。さらに、南シナ海の軍事基地化がどんどん進んでいます。さらに、オーストラリアが新型コロナウイルスの発生源をきちんと調査したほうが良いと発言すると、途端に中国は、オーストラリアからの牛肉の輸入を削減してしまいました。こうした外交は、「戦狼外交」といわれています。2017年に大ヒットした『戦狼2』という中国映画がありました。中国の特殊部隊の元隊員が人種差別主義者のアメリカ人の傭兵部隊と闘う大人気の映画です。ポスターには「中国を侮辱するものは根絶する」といった意味のことが書かれており、皆で唱和しているそうです。少し恐ろしいですね。


●アメリカは感染拡大に対する中国とWHOの責任を追及


 一方、アメリカではドナルド・トランプ大統領は「新型コロナウイルスは風邪と変わらない」といって特に対策しませんでした。そのために、最初の6週間が空費されたといわれています。感染症対策にとって非常に重要な時間を浪費したのです。専門家の進言も無視しました。アンソニー・ファウチ氏(米国立アレルギー感染症研究所の所長)などは、何度も解雇すると圧力をかけられています。知事が民主党員である州は差別しました。ニューヨーク州、ミシガン州、カリフォルニア州などです。大統領を尊敬しない知事がいる州に対しては当然の態度だ、と記者会見で発言します。

 そして、選挙の時に景気が悪いと問題なので、拙速に経済活動を再開したために、感染が拡大してしまいました。これに関しては、前に詳しく申し上げました。世界最強の先進国であるアメリカで、340万人もの感染者が出るのは考え難いのです。私見では、ここまで感染が拡大したのは、トランプ大統領の責任だと思います。

 ところがトランプ大統領は、自分が間違っていたとは認めません。マスクも長いこと身に付けませんでした。全て中国とWHOが悪いと主張しています。もともと感染が発生したのは中国で、しかも中国のウイルス研究所から意図的に流出させたという難癖をつけています。そのために調査を行いたいといっているのです。その調査で確証を得られれば、賠償を請求するというのです。これに対して中国の報道官もさすがに反発しました。3月にコロナウイルスを中国に持ち込んだのは米軍だと反発して、水掛け論の応酬になっているのです。

 ですので、現在の米中関係は史上最悪といわれています。コロナウイルスの拡大が始まってから、それまでよりも対立が尖鋭化しました。アメリカ当局は武漢のウイルス研究所に専門家の立ち入りを求めています。中国はずっと拒否していましたが、7月上旬に研究所の立ち入りをいったん認めました。しかし、中国側は流出などあり得ないといっています。

 ところがトランプ大統領は、意図的に流出させたとして賠償請求すると何度もいっています。実際ミズーリ州をはじめとしたいくつかの州が、中国の提訴を発表しました。イギリス、イタリア、ドイツ、エジプト、インド、オーストラリアなどの国でも、民間団体も含めて賠償請求を起こしているそうです。

 さらにトランプ大統領は、WHOを批判しています。WHOが過度に中国寄りだとして分担金を払わずに、脱退声明を出しています。テドロス事務局長が中国を訪問して、中国の感染収束への努力を高く評価したためです。アメリカ政府は早々と中国人のアメリカ入国禁止措置を発表しましたが、これを批判したことも...
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