コロナパンデミックと闘う世界と今後の課題
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
第一次世界大戦末期からのスペイン風邪で進んだ社会変革
コロナパンデミックと闘う世界と今後の課題(8)スペイン風邪とその影響
島田晴雄(慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツ・アカデミー副座長)
世界における感染症の歴史的経験の2つ目として、スペイン風邪を取り上げる。第一次世界大戦で疲弊した各国を襲ったスペイン風邪は、ヨーロッパだけではなくアメリカや日本など世界各国で大きな被害をもたらした。日本ではスペイン風邪の流行をきっかけに経済的な不平等に対する不満が高まり、大正デモクラシーの素地を築いた。また、ヨーロッパでも数々の社会変革が生まれた。感染症の拡大は、20世紀にも大きな社会変動を生み出したのである。(全12話中第8話)
時間:9分49秒
収録日:2020年7月16日
追加日:2020年8月30日
≪全文≫

●第一次世界大戦下で猛威を振るったスペイン風邪


 もう一つの例は、スペイン風邪ですね。スペイン風邪の発生地に関しては諸説ありますが、カンザス州のファンストンという米軍基地が有力です。1918年3月に基地内の診療所で発熱・頭痛を訴える患者が殺到しました。1000人以上がこの病気に感染して、その時の記録では48人が亡くなっています。

 発病した兵士は、豚小屋の清掃担当だったようです。ファンストンという土地は、カナダからガンが大量に飛来する越冬地です。ガンが運んできたウイルスが豚に感染し、豚の体内で変異して人に感染するようになったというのが今の解釈です。第一次大戦の末期に、欧州戦線に派遣されたアメリカ兵から欧州全体に波及し、アフリカにまで広がりました。特に1918年8月頃からはるかに毒性の強いウイルスが蔓延しました。ダーウィンの法則の通りに環境適応して毒性が強化されたのです。

 スペイン風邪という名前である理由は、第一次大戦中に多くの国が情報統制を敷いたことにあります。自国で流行しているなどとは絶対にいえませんでした。しかし、スペインは中立国だったので、その統制が比較的緩かったのです。スペインで流行しているとさんざんメディアで報じられたので、スペイン風邪という呼称が定着してしまいました。後でスペインが不名誉なので呼称を変えるよう申し立てましたが、なかなか変化しません。

 この時期は第一次世界大戦の末期でした。第一次大戦が勃発したのは1914年の夏ですが、当時は半年もすれば終わると皆思っていました。ところが第一次大戦は革新的な技術が用いられた大戦でした。機関銃、戦車、毒ガスなどが用いられ、それらに対抗するために塹壕を掘ったため、膠着状態に陥りました。塹壕は湿気が高く非常に不衛生なので、赤痢や発疹チフスが蔓延しました。塹壕にこもっていた兵士は、塹壕足という凍傷と水虫の複合症に悩まされました。これがひどくなると、脚を切断しなければなりません。多くの人がこうした苦しい状況に3年半も置かれていたところに、このウイルスの感染が拡大したのです。

 両軍とも半分以上の兵士が感染して、戦闘どころではない状況だったそうです。

 興味深いエピソードとして、ドイツ軍の最高司令官であったエーリッヒ・ルーデンドルフの話があります。この将軍は、1918年7月にパリから80キロメートルのマルヌ川まで迫りました...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
財政問題の本質を考える(1)「国の借金」の歴史と内訳
いつから日本は慢性的な借金依存の財政体質になったのか
岡本薫明
2025年、どん底日本を脱却する大戦略(1)日本が凋落した要因を総覧する
日本凋落の「7つの要因」と「10の復活大戦略」
島田晴雄
マルクス入門と資本主義の未来(1)マルクスとはどんな人物なのか
マルクスを理解するための4つの重要ポイント
橋爪大三郎
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
東秀敏
緊急提言・社会保障改革(1)国民負担の軽減は実現するか
国民医療費の膨張と現役世代の巨額の「負担」
猪瀬直樹
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博

人気の講義ランキングTOP10
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
岡朋治
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦
編集部ラジオ2025(27)なぜ何回説明しても伝わらない?
なぜ伝わらない?理解の壁の正体を今井むつみ先生に学ぶ
テンミニッツ・アカデミー編集部
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(2)量子論と空海密教の本質
脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは
鎌田東二
内側から見たアメリカと日本(2)アメリカの大転換とトランプの誤解
偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動
島田晴雄
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制
『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割
今井むつみ
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(1)ソニー流の多角化経営の真髄
ソニー流「多角化経営」と「人的資本経営」の成功法とは?
水野道訓
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(2)「ほめる」技術
男性は「ほめる」のが苦手?傾聴から始まる「ほめる」技術
三谷宏治
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
田口佳史