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本性主義の経営――コロナ禍でも人間の本性は変わらない

「逆・タイムマシン経営論」で見抜く思考の罠(5)本性主義の経営とコロナ

楠木建
一橋大学大学院 経営管理研究科 国際企業戦略専攻 教授
情報・テキスト
騒動が起こりやすくなったのは、情報流通手段の発達によって、情報拡散のスピードが格段に上がっているためである。しかし、どのような騒動、あるいは緊急事態の中でも人間が高い適応力を示していることは、過去の事例を振り返っても分かる。このような状況下で経営に必要なのは、どんな状況でも変わらない人間の本性を見極め、その本性に合致したサービスを提供することなのである。(全6話中第5話)
時間:12:32
収録日:2020/12/07
追加日:2021/05/22
≪全文≫

●情報流通手段の進歩で騒動が起こりやすくなっている


 では、なぜ現在のような状況になるのでしょうか。私の意見では、良くも悪くも、社会進歩の結果だと思います。社会が進歩すればするほど、騒動は起きやすいのです。米騒動も、当時、市場メカニズムが日本で発達し始めたこと、および明治時代などと比べるとはるかに情報拡散のスピードが上がっているために、あのような騒動が起きたのです。つまり、市場(マーケット)メカニズムと情報(流通)のスピードということです。

 今回の場合、社会進歩を感じる点は、グローバルに人間の生命が一番重要だという普遍的な価値観が確立している点です。だからこそ、これだけの大騒ぎになるわけです。また、いうまでもなく、情報の流通スピードが格段に速くなっているので、これによって、騒ぎが大きくなっていると思うのです。

 もう一つ、逆・タイムマシン経営論的な発想で、私は太平洋戦争時代の空襲にさらされた日本人はどのように生きていたのか調べました。空襲下の東京を生きた同時代の人々が残している日記(『戦中派不戦日記』<山田風太郎著、講談社>『東京焼盡』<内田百閒著、中公文庫>『古川ロッパ昭和日記』<古川ロッパ著、晶文社>)を、2020年3月から4月にかけて熱心に読みました。その結果一つ分かったことは、人間の適応力がいかに侮れないかという点です。空襲はおっかないものですよね。初めは怖くて体の震えが止まらない普通の市民も、連日の空襲の中で、半年たつとすっかり空襲に適応して、怖がらなくなっていると書かれていました。初めのような怖がり方はしなくなっていたのです。

 やはり人間の適応力はバカにならないと思ったのです。コロナの場合は、破壊の意思を持っているわけではないので、空襲よりはだいぶマシだろうと思います。ただし、今のところはワクチンや特効薬がなく、また感染症は目に見えません。それゆえに怖いという理屈はよく分かります。

 この方はフランスの有名な思想家のミシェル・ド・モンテーニュです。彼はペストの時代のヨーロッパを生きており、彼が住んでいたフランスのモンテーニュ村にも遂にペストが押し寄せてきました。さすがのモンテーニュも少し動揺しましたが、彼は結局、われわれはいつでも乱されていることに思い至るのです。

 この指摘は正しいと思います。例えば、今回の騒動は100年に一度の危機などといわれますが、私はまだ56年しか生きていないにもかかわらず、すでに7回目くらいの100年に一度の危機だと思います。人間の世の中は、このように過敏に反応するものだと思うのです。「今こそが激動期だ」といいたくて仕方がない人がいるのです。このような人を、「激動期おじさん」と呼んでいます。そのような人に限って「判断が難しい」といいます。そのような難しい判断をするためにあなたがいるんじゃないのか、と思うわけです。こうした状況を、乱されているというのです。


●人間の本性を基軸に考える「本性主義の経営」


 ですので、経営者やリーダーにとって必要なのは、まずは自分の頭の中で線引きを行うことです。コントロールできないことをコントロールしようとするために、さまざまな誤りが始まるのではないかと思うのです。つまり、じたばたしないに限ると思うのです。ただし、一方で、コントロールできるものもたくさんあります。そのような場合には、人間の本性を基軸に考えるのが良いと思います。これを私は、「本性主義の経営」といっています。

 もちろん、コロナのような外的な大きなショックが広まると、不確実性は一気に高まります。誰も未来は予測できません。ただし、先ほどの本質の話でも指摘した通り、人間の本性は変わらないのです。すると、本性を基軸に判断することが、最も頼りになるのではないかと思います。

 「コロナで世の中は一変するか?」という話も盛り上がっています。もちろん、変わることも多々あるでしょうが、いわれているよりも元通りになる可能性が高いのではないかと考えています。というのは、ここでも逆・タイムマシンの発想で、かつてのパンデミックを人間がどのように受け止めて、その後何が起こったのか振り返ってみましょう。先ほど例に挙げたスペイン風邪は、コロナとは比較にならないほど凶悪なインフルエンザでした。コロナとの最大の違いは、スペイン風邪は主として若い人が犠牲になっていました。同時代の人は、おっかないものだったと記録しています。

 興味深い点として、スペイン風邪の存在は3、4年後にはすっかり忘れていたというのです。当然、流行当時には、大変な出来事を失敗の教訓として残したいと書いていますが、あれほど大騒ぎしたスペイン風邪も、数年後にはみんなすっかり忘れており、何事もなかったかのように暮らしている、これが不思議だと本に書いて...
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