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IT業界で次々に発動される飛び道具トラップのメカニズム

「逆・タイムマシン経営論」で見抜く思考の罠(3)飛び道具トラップと「文脈剥離」

楠木建
一橋大学大学院 経営管理研究科 国際企業戦略専攻 教授
情報・テキスト
同時代性の罠には、飛び道具トラップ、激動期トラップ、遠近歪曲トラップの三つがある。今回は、IT業界における飛び道具トラップの弊害について考察する。この50年を振り返っても、IT業界ではさまざまな発明が出てきており、そのたびに大きく産業構造が転換するといってメディアは人々の恐怖を煽った。しかし、そうした波に流されて失敗した事例から、本質を見極めて適切な選択を行う能力を培うことの重要性が浮き彫りになる。(全6話中第3話)
時間:12:26
収録日:2020/12/07
追加日:2021/04/05
キーワード:
≪全文≫

●同時代性の罠は三つのタイプに分けられる


 そうすると、歴史はいよいよ味わい深いものとなります。この50年間の、例えば『日経ビジネス』の記事を振り返るだけでも、歴史は変化の連続であることが分かります。ただし、変化を振り返ると、その中でも一貫して変わらないものがあることにも気づきます。それがすなわち本質ではないかと思うのです。変化を追っていくことで、逆説的に変わらないものが見えてきます。この歴史の逆説を利用するのが逆・タイムマシン経営論なのです。

 同時代性の罠は、三つのタイプに分けて考えることができます。一つ目は「飛び道具トラップ」です。二つ目は、今こそが激動期と思い込むことで、奇妙な手に出てしまう「激動期トラップ」です。三つ目は、遠いものほどよく見えて、近いものほど粗が目立つという現象です。例えば、日本はダメで、逆に中国は伸びている。何か見習うべき点があるのではないかといった具合です。このようなバイアスに囚われて判断ミスをすることを「遠近歪曲トラップ」といいます。このような同時代性の罠にはまって、判断ミスをする会社が後を絶たないのです。その中でも、今回は飛び道具トラップについて詳しく見ていきたいと思います。

 このトラップは、IT分野で次々に出てきています。いつの時代も、「これからはこの新たな技術が競争の決め手になる」「秘密兵器だ」などといわれます。こうした飛び道具がITの分野で出てきては、みんなが飛びつき、判断ミスをしてしまうのです。

 非常に興味深いのは、『日経ビジネス』を50年分読んでいくと、ずっと「仕事がなくなる」といわれています。オートメーションの出現で仕事がなくなる、あるいは1960年代にはコンピュータで仕事がなくなるという話もありました。ロボットの出現や、覚えてない方もいるかもしれませんがSIS(戦略情報システム)で仕事がなくなるともいわれました。インターネットの出現や、ERP(企業資源計画)も同様にいわれました。少し前にはAI(人工知能)、今ではDX(デジタルトランスフォーメーション)で仕事がなくなると騒がれています。その割には、多くの人は変わらず仕事しています。

 例えば、コンピュータによるオートメーションが始まった時の新聞の記事を見て見ましょう。工場の自動化だけでなく、事務も自動化されることで、大規模な人員削減が起こると指摘されています。現在のAIの出現に際しても、同じような話をしています。ロボットが出現すると「ロボットショック」が起こる。このような新しい技術が出てくると、往々にして「革命」だといわれます。面白いことに、『日経ビジネス』などでは、創刊以来50年間毎日革命状態にあるように思われます。滅多に起きないから革命というのですが、何が出現しても「革命だ」と煽るのです。例えば、こちらの記事では「意外な早さでロボットショックはやってくる。次世代、すなわち息子たちは、完全にその渦中にあるだろう」とあります。例によって、仕事がなくなると結論しているのです。

 1980年代の終わりには、SISの大ブームが起こりました。「新経営手法」、「しのびよる脅威」などと強い言葉で煽るいつものパターンです。「先手必勝。出遅れは致命傷だ」と指摘しています。

 このような状況下では、飛び道具としてのITのツールやシステムを提供しているベンダー、サプライヤーが煽るわけですね。当時、一番報酬が高かったCMタレントである田原俊彦氏などを起用して、「SISはNEC」、「東芝のSIS」などと宣伝したのです。その結果、この年のビジネス書のベストセラーは、全てSIS関係となりました。大きな注目を浴びましたが、翌年になると早くも「SISは『死ス』?」という記事が出ています。ずいぶん展開が早いですね。また、ERPの場合も、「秘密兵器」という触れ込みですが、同じ展開なのです。「業務の合理化であなたの仕事はなくなるかもしれない」と、強い言葉で煽るのです。


●文脈への理解が足りないと手段が目的化してしまう


 こうした繰り返しを見ると、ITはその都度、新奇性、または即効性があるかのように見えてしまいます。これが飛び道具トラップを誘発する傾向があると思います。簡単にいえば、手段が目的化しているのです。ITは本来ツールのはずなのに、それを導入することが目的になってしまっているのです。

 最近の例では、「サブスク」というビジネスモデルが話題になっており、同じように飛び道具扱いされています。もともとは、サブスクリプションという単語ですが、4文字に短縮されるようになると、かなり危険な段階にあるといえます。2020年あたりから、バズワードになっているようで、パナソニックもトヨタも食いついているようです。このような状況になると、いよいよブームも本物になってきます。

 新たな飛び道具が注目されるとき...
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