●ファストメディアの時代、情報のコモディティ化が進む
われわれは、つくづく「ファストメディア」の時代に生きているなと思います。いつ、どこでも、最新の情報があふれています。ただし、肝心な「なぜある現象が起こっているのか」という論理が希薄になっています。これが「ファストメディア」だと思うのですね。
受け手のほうは隙間時間にスマートフォンで、数多くのページを次から次へ遷移しながら、断片的にすぐにパッと目につく情報を吸収していきます。その結果、文脈理解がますます希薄になります。一方で、情報の供給側であるメディアも、オンラインではどれだけ読まれているかというページビューが可視化されるため、当然商業メディアなのでそれを最大化するインセンティヴを持ちます。そのような色気をもって編集をするようになると、多くの人が注目するバズワードを用いるようになります。
人々が最も関心を寄せるのは恐怖ですので、「仕事がなくなる」などの恐怖を煽るような記事の作成に明け暮れるようになります。こうした需給が、悪い意味で合致して、悪循環が生まれていると思います。
情報はコモディティ化しきっており、情報を持っているだけでは、その他大勢とほとんど変わらない状況です。だからこそ、逆・タイムマシンに基づけば、本質を引き出すセンスがますますこれから稀少になっていくといえるのです。逆にいえば、経営者やビジネスパーソンにとって、逆・タイムマシン経営論のような考え方が、差別化の武器になると考えております。ウォーレン・バフェット氏はつくづくうまいことをいっています。「われわれが歴史から学ぶべきは、人々が歴史から学ばないという事実だ」というのです。その通りだと思います。
●「バック・トゥ・ザ・フューチャー」という思考法で経営センスを磨く
われわれは改めて「スローメディア」と向き合う必要があると思います。いつの時代も読書、よい本を読むことが王道です。スローメディアの王道は本なのです。「新聞雑誌は寝かせて読め」という話の背景には、かつてはファストメディアだった古新聞古雑誌の記事が、時間を置くだけで、上質なスローメディア、論理を考えさせる教材に変容するという事実があります。半年前の新型コロナの記事を、ぜひ今ご覧になってください。早くも良い味を出しています。まだ引ききっていませんが、潮が引いた後で、何が本物か分かるわけです。誰が本物で誰が偽物だったのか、いやでも分かるのです。しかも、大変低コストです。
現在では、新聞記事がどんどんアーカイブ化、デジタル化されていますので、過去の記事へのアクセスが大変容易になっています。その意味で、現代ほど「パストフル」な時代は滅多にないのです。これは、若い方にもぜひお薦めしたい考え方です。つまり、私を含めて、おじさんはかつて全員若者でした。それなりに若者の記憶が残っています。ただし、おじさんになったことのある若者は一人もいません。ですから、自分の実経験の中に、時間的な奥行き、歴史の蓄積が薄い人ほど、このような考え方で過去を振り返ることで得られるものが多いと考えられるのです。
要するに「バック・トゥ・ザ・フューチャー」という考え方です。誰もが未来、将来が気になりますが、だからこそ一度過去に遡り、そこに積み重なっているファクトを見る必要があるのです。しかもファクトだけではなく、文脈も含めて考えて、本質を見抜いた上で、未来に向かっていくべきなのです。この「バック・トゥ・ザ・フューチャー」という思考法が逆・タイムマシン経営論の根幹であり、経営のセンスや大局観を獲得するために有効だと信じています。
今回はコロナの話題や、飛び道具トラップについてお話ししました。その他にも激動期トラップや遠近歪曲トラップなど、近過去の歴史を見ていくと、笑ってしまうような、また笑いながらも考えさせるような話が多くあります。気になる方は、ぜひ私の本(『逆・タイムマシン経営論』)をお読みいただければ幸いです。
駆け足になりましたが、1時間にわたって、私の話をお聴きくださりありがたく思います。皆様のご多幸とご商売の繁盛をお祈りいたします。本日はどうもありがとうございました。以上でございます。