●東大EMPの「知の共有」へ、テンミニッツTV誕生の背景
小宮山宏先生が「知の構造化」に取り組まれたということで、そのあたりを整理させていただきたい。
EMP(東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム)です。東大には20~30ほどの学部があります。僕も学長を務めていたことがありますから分かりますが、学部をまとめるのはとても大変です。東大はとても大きな大学で1000人~2000人ほどいる先生全てではなく、その中から80人ほどをピックアップしました。よくぞこのようなことができたと思うのですが、行いましたね。
そして高い月謝を取り、産業界と官界などから人を集めて、非常に高いレベルの「知の共有」をしたのです。
ただ、「これでは時間がかかって仕方がない。一気に広げよう」となって、次に「テンミニッツTV(テンミニッツTVオピニオン)」という教養メディアのプログラムを始めました。その時、小宮山先生が座長で、僕も一緒に関わったのですが、当時「行っていることは宗教革命だ」という文章を書いたのです。
どういうことかというと、私たちはテレビなどで数多く取材されるのですが、30分ほど話を聞かれて、実際に使われるのは20秒程度です。20秒が使われるということは、プロデューサーや企画者の言いたい部分だけを抜かれてしまうのです。「なんだ、これは」といったことで、知識人は皆、それに不満を持っている。そこで、全て話をさせて、聞きたい人に全てを聞かせようではないかという希有なメディアを考えたのです。よくぞこんなことを考えてくれました。
私はそれに付き合っているうちに、(先述したように)「これはマルティン・ルターの宗教革命だな」と思いました。つまり、マスメディアは人に30分間話を聞いて、1分以上報道しない。全てマスメディアの思うように編集してしまう。新聞もそのような面が少しありますが、特にテレビはひどいですね。人々はテレビから情報を受け取っています。SNSはさらにひどい状態です。
それに対して(テンミニッツTVは)敢然とチャレンジしたのです。 言いたいことを全て言わせる。そして聴きたい人がお金を払い、「テンミニッツ」ですから10分間ほど聴く。私のように話の長いものを聴かせるときは15回ほどに分けます(皆さん我慢して聴いてくださるのです)。
●ルティン・ルターの宗教革命を彷彿させる「知の革命」
これは、マルティン・ルターが次のような批判を持ったことにも通じます。
カソリックの神父さんは金銀財宝を全て身につけていて、免罪符を持っているものだから「神様が許してやる」と言うと皆「はは~」と頭を下げて(物品を)渡すのです。
当時、中世ですから印刷機がありません。そして聖書は修道院の一番上にあるのです。羊皮紙でできているので重いのです。実は、そこへ行くと病気になると言われていました。なぜかというと、細菌が付いていて、本物の聖書などを見ようものなら手が汚れて、病気になってしまうというのです。だから神父さんたちは、そこに行っていません。だから、勝手に解釈して「このようにしたら免罪符を出してやるぞ」と言う。すると、皆がお金を出したり、何かを提供したりする。(つまり、彼らは)腐っているということです。
マルティン・ルターはそれを分かったので、「ならば、彼らを叩きつぶしてやる」と。どうやってそれをするか。折しもその前にグーテンベルクが印刷機を発明しました。それで(ドイツ語に翻訳した)聖書を何千部か刷ったのです。そして皆に渡した。そうすると、「神父たちが言っていることと全然違うことが書いてあるではないか」ということで宗教革命になった。彼は殺されそうになったのですが、そうしてプロテスタントができたのです。
(今回)これに似たチャレンジを行ったのです。すごい「知の革命」です、これは。