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100年前の「米騒動」に学ぶコロナ問題の捉え方

「逆・タイムマシン経営論」で見抜く思考の罠(4)「文脈思考」でトラップを回避せよ

楠木建
一橋大学大学院 経営管理研究科 国際企業戦略専攻 特任教授
概要・テキスト
飛び道具トラップにはまりやすいのは、すぐに新たな技術に飛びつくものの、その本質を理解しようとしない専門家と構想を持たない経営者の組み合わせである。これを回避するためには、本質を抽象化し自社の文脈に位置づけて考える「文脈思考」が重要である。コロナ禍の事例を100年前の「米騒動」と結びつけることで、人がいかに不確かな情報に踊らされているかが見えてくる。(全6話中第4話)
時間:08:22
収録日:2020/12/07
追加日:2021/05/15
≪全文≫

●飛び道具トラップが生まれる最悪の組み合わせ


 どのような人がこのようなトラップにはまりやすいのか考えてみましょう。まず、情報感度が高い人ほど飛び道具トラップにはまりやすいと思います。また、せわしない(忙しい)人ですね。スマホを何度も見て、注目のキーワードやバズワードにしか目が向かず、その背後にある文脈や、その現象が含んでいるロジックに目が向かないのです。

 また、せっかちな人の場合は、すぐに効果が出るものを求めがちですが、これはよろしくありません。「すぐに役立つものほど、すぐに役立たなくなる」というのは、私は商売の鉄則だと考えています。また、行き詰まっている人ほど、一発逆転の手を探し、局面を打開できるものを探します。そのため、飛び道具が巧妙に見えて、トラップにはまる傾向があります。

 特にITやHR(ヒューマンリソース)など専門性が高い分野では、自分の担当領域のことで頭がいっぱいの方が多いように思います。商売全体で利潤をあげている文脈や戦略、ストーリーに目が向かない人ほど、先ほど指摘した手段の目的化に陥ってしまいがちです。

 一方で、ポンコツ経営者は、代表取締役担当者となっています。これを専門用語で「チーフエグゼクティブ担当者(CET)」と呼んでいます。このような人は、戦略構想も持たないまま社長の担当業務だけ粛々とこなしています。手段を目的化しがちな担当分野の専門家と、焦りはしても構想や戦略を持たない代表取締役担当者は、最悪の組み合わせです。この悪循環によって、飛び道具トラップが生まれるのではないかと思います。


●飛び道具トラップを回避するための「文脈思考」


 これを回避するためには、先ほどのメカニズムを逆転させることが必要です。そのことを、文脈剥離とは反対に、文脈に位置づけて考える、「文脈思考」と呼んでいます。

 まず、自分の商売がどのような戦略やストーリーで稼ごうとしているのかというビジョンが固まっていなければ、何をしても仕方がありません。これを固めた上で重要なのは、成功事例の本質を見ることです。成功事例からはもちろんさまざまな教訓を得られますが、その際にも、注目されている部分、例えばサブスクリプションという課金形態だけを見るのではなく、その部分が成功事例全体の文脈の中でどのような役割を果たしているのかを見るべきです。その上で、本質を抽象化し...
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