●円滑に行動するための「制約」がひらめきを邪魔している
ひらめきというのはなかなか訪れないわけです。最初にも申し上げましたけれど、すぐに思いつくものはひらめきとは言わない。3+2の答えが5だということに対して、「5とひらめいた」とは誰も言わないわけです。その“ひらめかない”理由は何かということについては、いろいろな考え方があるのですが、その中で大変有望な考え方の1つに「制約」があります。これは、最初にバイアスの類語のところでお話ししました。
私たちは標準的な事態に迅速に対処するため、すぐにうまく働くような認知メカニズムを持っています。これを「制約(constraint)」と呼んでいます。これによって不要な情報を排除して、それから情報を絞り込んだり、あるいは、全ての可能性を列挙して、考えなくてもいいことをいちいち1つずつ検討するということなく、「ここらへんでしょ」というような絞り込みができるようになったりすることで、迅速な処理が可能になります。
これを図に表してみました。私たちの周りの世界にはいろいろなものが存在しています。でも、この全てが重要であるはずはないし、全部が重要だったら頭がパンクしてしまいます。ですので、私たちは特定のものにスポットライトを当て、「ここらへんでしょ、ポイントは」というような分かり方をするわけです。これはまさに制約の1つの働き方です。
もう1つ。あることを問われて、「これかな」「あれかな」といろんな可能性が頭の中に思い浮かぶかもしれないけれども、それを1つずつ、どれが正しいだろうと検討していけないので、「多分これでしょ」というような決め打ちをする。これによって、他の可能性を考えるために払うコストをゼロにすることができるわけです。ですので、制約というのは普通の世界の中ではうまく働いています。
しかし、ひらめきが必要になるような問題においては、実はこの制約がひらめきを妨げてしまうのです。スライドの図で説明します。上の図で見ると、私たちは右側にあるような情報が大事なのだろうという決め打ちをやっています。しかし、洞察問題を解決するひらめきに至るためには、実はこちら(左)の情報が大事だったということがあるのです。
下の図でも、左から2つ目を「これでしょ」...