世界と戦う一流アスリートは、ここまでの準備をし、このように発想し、このようなメンタルトレーニングをし、スランプや失敗とこのように向きあっている。情景が目に浮かぶような数々の逸話から、「本番での成功」「自分の向上」のための方法論を語る講義シリーズ。第1話では、アスリートたちが本番で力を発揮するために、「準備」と「本番」の2つのフェーズに分けて物事を考えていることを解説。「準備」段階ですべきは、本番の状況を細部にわたってシミュレーションしておくこと。そして、本番で「意識が散漫にならない」ように対策し、期待値をコントールできるなら、失敗の可能性を下げられるというわけだ。(全8話中第1話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
本番に向けた「心と身体の整え方」
集中のスイッチを入れる方法は意識からと身体からの2通り
本番に向けた「心と身体の整え方」(1)ディテールにこだわる
哲学と生き方
為末大(Deportare Partners代表/一般社団法人アスリートソサエティ代表理事/元陸上選手)
時間:9分36秒
収録日:2020年9月16日
追加日:2021年1月19日
収録日:2020年9月16日
追加日:2021年1月19日
≪全文≫
●「準備」と「本番」の2つに分ける
―― 皆さま、こんにちは。本日は為末大先生に、本番、戦いに臨むにあたっての「心と身体の整え方」というテーマでお話をいただきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
為末 よろしくお願いします。
―― まず、最初にお聞きしたいのが、アスリートの皆さんの場合、ここぞという競技の本番に向けてどうやって、心なり体調を整えていくかについてです。比較になるかどうかは別として、ビジネスパーソンの方々も仕事のプレゼンテーションの場でどうしてもうまくいかないとか、なぜか本番のときだけうまくいかないというケースは多々あります。アスリートの方は、「何月何日のここに焦点を当てる」という目標に向けて、どうやってベストな結果を出せるように整えていくのでしょうか。
為末 私たちは、準備と本番というように、2つに大きく分けて考えます。準備に関して言うと、当たり前なのですが、たくさん繰り返しているほうが本番でもうまくやりやすい。練習が大事といわれる所以ですね。一方で、試合と同じ内容を何度も繰り返す「練習」と「本番」とは違う点が1つあります。それはシチュエーションの違いです。練習は失敗しても明日がありますが、本番は観客がいて、失敗すると明日がありません。この違いはとても大きい。
そのため、練習では、ただ身体の反復をするだけではなく、試合本番のときの自分の心の中というか、情動的な動きもイメージしておかないといけません。練習で身体は完璧にできるのですが、観客が数万人いるのを見た瞬間に、自分の心がどんな動きをするかは分からないからです。
仕事のプレゼンというのもおそらくしゃべる練習だと思います。スポーツでも事前準備である身体の反復に加えて、頭の中に具体的な細かいディテールをイメージしていきます。
――細かいところまでイメージするのですね。
為末 はい。例えば、観客がどこにいて、自分の母親はどこで見ているか。風がどう吹いているか。ゴールした瞬間にインタビュアーはどこにいるか。何秒後にインタビュアーはこちらに来るか。マイクは何色か。どのタイミングで自分は泣くのか。そういうのを全部やっていきます。身体の動きのシミュレーションはすぐに済むのですが、心の中の、情動の部分、感情がどう動くかということも一緒にイメージをしていきます。
●「準備」と「本番」の2つに分ける
―― 皆さま、こんにちは。本日は為末大先生に、本番、戦いに臨むにあたっての「心と身体の整え方」というテーマでお話をいただきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
為末 よろしくお願いします。
―― まず、最初にお聞きしたいのが、アスリートの皆さんの場合、ここぞという競技の本番に向けてどうやって、心なり体調を整えていくかについてです。比較になるかどうかは別として、ビジネスパーソンの方々も仕事のプレゼンテーションの場でどうしてもうまくいかないとか、なぜか本番のときだけうまくいかないというケースは多々あります。アスリートの方は、「何月何日のここに焦点を当てる」という目標に向けて、どうやってベストな結果を出せるように整えていくのでしょうか。
為末 私たちは、準備と本番というように、2つに大きく分けて考えます。準備に関して言うと、当たり前なのですが、たくさん繰り返しているほうが本番でもうまくやりやすい。練習が大事といわれる所以ですね。一方で、試合と同じ内容を何度も繰り返す「練習」と「本番」とは違う点が1つあります。それはシチュエーションの違いです。練習は失敗しても明日がありますが、本番は観客がいて、失敗すると明日がありません。この違いはとても大きい。
そのため、練習では、ただ身体の反復をするだけではなく、試合本番のときの自分の心の中というか、情動的な動きもイメージしておかないといけません。練習で身体は完璧にできるのですが、観客が数万人いるのを見た瞬間に、自分の心がどんな動きをするかは分からないからです。
仕事のプレゼンというのもおそらくしゃべる練習だと思います。スポーツでも事前準備である身体の反復に加えて、頭の中に具体的な細かいディテールをイメージしていきます。
――細かいところまでイメージするのですね。
為末 はい。例えば、観客がどこにいて、自分の母親はどこで見ているか。風がどう吹いているか。ゴールした瞬間にインタビュアーはどこにいるか。何秒後にインタビュアーはこちらに来るか。マイクは何色か。どのタイミングで自分は泣くのか。そういうのを全部やっていきます。身体の動きのシミュレーションはすぐに済むのですが、心の中の、情動の部分、感情がどう動くかということも一緒にイメージをしていきます。