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限界か、スランプか――伸び悩んだときに見るポイント

本番に向けた「心と身体の整え方」(7)スランプの克服と選手の成長

為末大
一般社団法人アスリートソサエティ代表理事/元陸上選手
情報・テキスト
限界か、スランプか。ある程度記録が伸びたところで直面するこの状態に対して、どう判断すればいいのか。見るべきポイントは、選手がどのくらいその場であがいたかだという。そのときに有効なのは、これまでとは違う刺激を与えてみることである。選手の成長には大きく分けると、積み重ねて伸びていくフェーズと破壊で伸びていくフェーズの二つがあるが、実際にはきれいに分かれているのではなく、繰り返しながら進んでいく。そのときに大事なのが出会うコーチのタイプだという。(全8話中第7話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:08:17
収録日:2020/09/16
追加日:2021/03/02
キーワード:
≪全文≫

●伸び悩んだときに見るポイントは多様な刺激を入れているか


―― どうやって自分の限界を知っていくかに関する話に近いと思うのですが、例えば、先ほどの「もう少しがんばれば、突き抜けるかもしれない」という岩盤の話は、伸びている局面であればその通りだと思います。ただ、逆にある程度伸びたところから、「あれ、おかしいな。前だったらもう少し楽にこれくらいの記録を出せたはずなんだけど、どうも最近記録が出しづらいな」というスランプになったとき、そこを「限界」と見るものなのか、「これはスランプであって、どこかにスイッチがあるはずだ」と思うのか。この点についてはいかがでしょうか。

為末 そうしたケースで、私たちは選手がどれくらいその場であがいたかを見ます。

―― あがいたか?

為末 別の言い方をすると、要するに人間の身体が持っている一番大きな力というのは「慣れる力」なのです。慣れる力が強いということは、同じ刺激を繰り返していくと、絶対にスランプに入る。例えば、ずっと素振りをやっていくと慣れてくるので、いくら素振りをやってもそれ以上伸びないというところがやってくるのです。そのときに違う刺激を入れることで、慣れる力を揺さぶって、次のステージに連れていくのですが、この揺さぶりをどのくらいやったかを見ます。

 ずっと同じことをやって伸びなくなって、「伸び悩んだ」と言っている人間には、「同じことばかりやっているのが原因だから、もう少しいろいろなことをやって、身体に全然違う刺激を入れていかないと、固まってしまうよ」と伝えます。そうして違う刺激を入れたりしながら散々やった挙げ句、それでもスランプになっていて、そこから抜け出すのが難しそうだとしたら、「もしかしたら本気の伸び悩みが来ているかもしれないから、辞めるということもあるし、仮に抜けるにしても、もう少し踏ん張りどころがあるかもね」という話をします。そういう感じで、あがくというか、多様な刺激を入れているかをよく見るということです。


●揺さぶりが少ない選手は成長が止まることが多い


―― 例えば、ずっとやってきたからやり続けるのではなく、あえて違う練習法を採り入れるということですね。

為末 はい。例えば、100メートル選手がずっとダッシュの練習をやってきたとして、10秒1をなかなか超えられないとなったとき、まっすぐ走るのではなく、テニスのように横にステップする刺激を入れあとに、まっすぐ走ってみると、記録がビュンと伸びることがあります。人間の身体は同じ刺激が一方向から入ってくるだけだと、どうしても伸び悩むので、仮にまっすぐ走ることの目的には合っていなくても、違う刺激が入って反応が変わってくることで、より上のレベルに引き上げられることがあるのです。

 ですから、いろいろな刺激、遊びを試してみる。例えば長距離をやってみるとか、逆に筋肉をすごくつけてみるとか、そんなふうに選手はあがきながら、なんとか壁を打ち破って、前に進む。その揺さぶりが少ない選手は成長が止まることが多いですね。

―― いろいろなことを試せるか、遊べるかというお話がありましたが、もしうまくいかないと、「あいつ、最近、何を迷走しているんだ」と言われてしまう。例えば、何月に試合があるとか、目標を設定しているとすると、迷走と遊びの違いは、けっこう難しいところがあるのではないでしょうか。

為末 おっしゃる通りで、これをやっているときの選手はだいたい批判されますね。

―― 批判されるものなのですね。

為末 ええ。不真面目に見えることもありますから。

―― 「何を遊んでいるんだ」みたいになるのでしょうね。

為末 ええ。「ただでさえスランプなのに、おまけに球技なんか始めやがって」と言われる。そういうとき、周囲の期待と自分の信念との対立が起きるので、選手も迷って悩みます。こちら(周囲の意見など)が正しいこともあるのですが、その中で自分を何度も揺さぶってみながら試してみる、という感じですね。

 私も現役の時、姿勢が一番きれいなのはクラシックバレエではないかと考えて、クラシックバレエの「1本の線を取る」という練習を始めたことがあります。どなただったか忘れてしまったのですが、その時にある球技の方が(それを知って)「ああ、なるほどね」と言ってくれたことがありました。だから、同じように伸び悩んだことのある人は、あれこれ試している姿がいろいろと工夫しているように見えるのだと思うのです。そんなふうに見てくれる人もいるというのは、一つ救い、励みにはなります。


●全ての選手を育てられるコーチはいない


―― なるほど。でもこれは実際のところ、指導者によるものなんでしょうか。例えば、「そんな余計なことやっているんじゃない」と言うコーチだったり、「ちょっと最近伸び悩ん...
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