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キティ・ジェノビーゼ事件と「共同のバイアス」のワナ

認知バイアス~その仕組みと可能性(6)共同のバイアス〈中編〉

鈴木宏昭
元青山学院大学 教育人間科学部教育学科 教授/博士(教育学)
概要・テキスト
多くの効用がある「共同」だが、デメリットもいろいろと存在する。一人でならできていたことが、集団になるとできなくなる。今回はそんな「共同のバイアス」のワナについて、ブレーンストーミング、キティ・ジェノビーゼ事件を取り上げて、社会心理学の知見をもとに解説する。(全7話中第6話)
時間:09:18
収録日:2022/05/26
追加日:2022/11/15
カテゴリー:
≪全文≫

●「ブレーンストーミング」がアイデア創出の低下をもたらすという報告も


 では「共同万歳!」といえるかというと、実はそうではありません。コインの表があれば、必ず裏がある。共同がいつでも素晴らしいものを生み出すかといえば、そういうわけではありません。このようなことは、認知科学というよりは社会心理学の分野で非常にたくさん研究がされてきています。

 ブレーンストーミング、これは「ブレスト」といって、日本でもいろいろな会社や組織で行っていると思います。「自由奔放」「質より量」「判断延期」「結合・改善」という4つの原理のキーワードのもとで、全員で意見を出し合って、自由奔放にアイデアを出し合っていきます。そして、その判断をいちいち「おまえはダメ」などと言わないで貯めていき、それらを結合し、改善して、いいアイデアに作り上げていくという素敵なものです。

 実はこれを実験的にきっちり研究したものがあるのです。ある時点、といっても1990年ぐらいだったと思いますが、それまでに20件ほどそういう実験的な研究がありました。それらを全部見てみると、ブレーンストーミングにおいて、それをやらなかったときよりも(やったときのほうが)いいものが出てきたという研究は、残念なことに実は1つもないのです。しかも、その中の80パーセントはアイデアの創出が低下しているという報告を行っています。

 私も最初にこのお話を聞いた時は非常にびっくりしました。ブレーンストーミングは有効なのではないかと思っていたので、「私たちは何をやっていたのだろう?」と考えてしまいました。


●共同がうまくいかない3つの理由


 ブレーンストーミングがうまくいかない理由について、社会心理学の方たちはいくつかの理由を出しています。そのうちの1つが「ブロッキング」と呼ばれるもので、これはすごく簡単なことです。集団になると一度に複数の人がしゃべることができない。1人ずつ順番に話していくしかない。なので、誰かが話をしていれば、自分は何か思いついても黙っていなければいけない。もちろん、そのあとに「今度は私が」と話せるときもあるけれど、その誰かの言った話がすごく面白かった、何か興味をひかれたというようなことが...
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