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ビブリオバトル、るるぶ創刊号の旅…不便を楽しむアイデア

不便益システムデザインの魅力と可能性(6)不便益デザインの実践:コト編

川上浩司
京都先端科学大学教授
情報・テキスト
不便益が活用される対象はモノだけにとどまらない。例えば「ビブリオバトル」や「京土産」、「るるぶ創刊号の旅」など、イベントやツアーといった体験や経験という「コト」の分野でも十分に生かすことができるのだ。前回の講義に引き続き、日常にある便利な事象を不便益デザインに変えていく実践が紹介される。(全7話中第6話)
時間:07:39
収録日:2020/12/08
追加日:2021/05/28
≪全文≫

●「今だけ、ここだけ、僕らだけ」から考えられた「ビブリオバトル」


 不便益のデザインはモノだけでなく、コトにも施されます。例えば、私どもの研究室でポスドクをして、現在は立命館大学の教授をしている方が考え出した「ビブリオバトル」というものがあります。

 ビブリオバトルとは書評合戦です。近年、書評は、ウェブやブログでされています。そのため、自分のブログにいつでもどこでも好きなときに好きなだけ書いて、読む人もいつでもどこでも誰とでもウェブを使って読むことができるので便利です。

 この「いつでも、どこでも、誰とでも」が便利のスローガンならば、その逆に「今だけ、ここだけ、僕らだけ」という不便を書評に取り入れるために考えられたのが「ビブリオバトル」なのです。

 ビブリオバトルは、ある場所に、ある時に、実際に、フィジカルに集まって、そこで書評を交わすものです。そのときには時間制限の不便があります。そして最後に、参加者全員が書評を語った後にどの本が読みたくなったかを挙手で選ぶという、ある種のイベント性もあります。これは不便にもかかわらずとても人気になり、東京都主催の全国大会が開かれるまでになっていました。


●ゲットする不便を思い出話にする「京土産」


 他にも例があります。学生さんと京都駅が便利すぎるという話をしていて、京都駅を不便にしようと考えました。それで思いついたのがお土産です。

 せっかく京都に来ているのに、帰り際の新幹線に飛び乗る直前に買ったお土産が、有名なお菓子屋さんのお菓子だというのは便利すぎます。本来、お土産は、旅の思い出とともにあるべきです。

 そこでこの学生が考えてくれたお土産は、京都駅に着いたときにある風呂敷を買い、その風呂敷を持って本店まで足を運べば、かの有名なお菓子屋さんのお菓子をその風呂敷に入れてくれるという仕掛けです。そして、その風呂敷を持って別のお菓子屋さんに行くと、そのお菓子屋さんでも同じ風呂敷にお菓子を詰め合わせてくれます。京都で有名な、別々のお菓子屋さんのお菓子が、一つの風呂敷、一つの箱に詰め込まれるなんて、ほぼあり得ないことです。けれどもこの仕掛けでは、この風呂敷を持っているとわざわざ足を運ぶという思い出とともに、かのお店のお菓子と、かのお店のお菓子が同じ風呂敷に詰め込まれ、世界に1つしかないお土産ができます。これによって、このお土産はその思い出話とともにあるわけです。

 このアイデアは、風呂敷にお菓子が詰め合わされるところまでは実現できませんでした。しかし、本店までわざわざ足を運ぶという苦労とともにお土産が得られるという意味で、以下のような冊子体になりました。

 これには老舗のお土産屋さんのリストが載っており、そのお店まで行くと、一番後ろの御朱印帳のようになっているところにハンコが押してもらえるという冊子です。これは風呂敷の詰め合わせという面白いアイデアのところは抜け落ちてしまいましたが、お土産をゲットすることを不便にして、それを思い出話にしたいという、もともとベースのところにあるアイデアは実現されています。


●旅先の町ならではの発見をするための「左折オンリーツアー」


 さらに、この京都ツアーに関連して、学生とまた別のことを考えました。昔の京都観光では、観光バスで名所を1日で何カ所も巡るという便利なツアーがありました。

 そこで学生と考えたのが、歩いて左折しかできない、左折オンリーで歩いていくツアー、すなわち、「左折オンリーツアー」です。

 観光地へ行くのに、右折すればすぐに近くに行けるのに、左折しかしてはいけないので、右折するためには、交差点を1つ通り越して3回左折して右折と同じことにしなければならないツアーです。これは京都ならではです。京都は碁盤目状なので、右折に代えて1つ交差点を通り越せば3回左折ができ、それで右折に代えることができます。

 さらに、そうした形で左折を3回すると、たいていは小さな路地に入り込みます。京都のような古い町だと、そういう小さな路地にも何かしらの歴史が埋め込まれており、発見があります。本来観光とは観光地に着くことが目的ではなく、その町の空気を吸うことではないかと考えました。この学生が考案した左折オンリーツアーは、その町でいろいろな発見をする、その町の空気を吸うツアーになっているのではないかと思います。

 このツアーを1600円で募集をかけたのですが、応募はゼロでした。どうしてゼロなのかを考えたのですが、聞いてみると「なにも1600円払わなくても、僕と友だちで、...
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