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「素数ものさし」は4万本売れた大ヒット不便益商品

不便益システムデザインの魅力と可能性(5)エモーショナル・デザインと不便益の活用

川上浩司
京都先端科学大学教授
概要・テキスト
素数ものさし
ユーザビリティデザインを説明する際に「アフォーダンス」という概念を参照したD.A.ノーマンが、次に提唱したのが「エモーショナル・デザイン」である。この概念と不便益は同じ方向を向いている。そこで不便益を生み出すための要素を参考に、身の回りのさまざまな製品を不便益デザインに変えていく試みが行われている。中でも京都大学の生協で販売している「素数ものさし」は、4万本も売れた大ヒット商品で定番のお土産になっているという。いったいどんな不便益があるのか。その他、いくつか活用事例を紹介しながら、不便益デザインの魅力を解説する。(全7話中第5話)
≪全文≫

●人間中心設計とは~エモーショナル・デザインの重要性~


 このように「アフォーダンス」という言葉を使って、使い勝手の良さを30年前から提唱していたノーマンさんですが、2005年に”Human-Centered Design Considered Harmful”「人間中心設計は害悪だと思われる」という論文を出しました。

 真逆なことを言っており、宗旨替えをされたのかと思ってこの論文をよく読んでみると、宗旨替えではなくて、人間中心設計を浅はかに捉えてデザインしていることが多すぎる、という主張でした。

 ノーマンさんの主張は、人間中心設計を、あたかも天動説のように人間様が宇宙の中心にいて何もしなくてよい、周りのものが動いてくれるというデザインだと捉えている人たちが多すぎるというものでした。本当の人間中心設計はそうではなく、人の動き、ないしは人の行いに意味があるようにデザインするというものです。

 それを別の言い方で唱えたのが、同じ年にノーマンさんが出された『エモーショナル・デザイン―微笑を笑う者たちのために』(原題: Emotional Design: Why We Love (or Hate) Everyday Things)です。ここでは、ユーザー中心設計を言い出したときには忘れていたもの、気づいていなかったものの1つとして、エモーショナルなデザインの重要性が指摘されています。


●「カスタマイゼーション」ではなく「パーソナライゼーション」


 ユーザビリティデザイン(人間中心設計)のときに「アフォーダンス」概念を参照したように、エモーショナル・デザインを考えるときにも、ノーマンさんはある概念を用いています。それが「パーソナライゼーション」というキーワードです。

 「人に合わせる」ということを示す言葉としては「カスタマイゼーション」があります。なぜあえてカスタマイゼーションではなくてパーソナライゼーションを使うかというと、カスタマイゼーションは、もともとデザイナーが準備した組み合わせの中からいくつか選ぶことを意味しているからです。それに対して、パーソナライゼーションとは、あるものが、買ったそのときから、少しずつ、人とその物とのインタラクションを通じて、その人になじんでいくということを指す言葉です。これは、カスタマイゼーションとは違います。

 この説明だけではよく分からないと思いますので、例を紹介します...
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