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写ルンです、おやつ300円まで…不便がもたらす益の数々

不便益システムデザインの魅力と可能性(2)不便がもたらす4つの益

川上浩司
京都先端科学大学教授
概要・テキスト
不便で良かったことは思いがけないところにある。それは便利なときには気がつかなかったり、見過ごされていたりするものだ。就職氷河期の時の話やバックパック旅行の思い出など、学生が経験した事例をもとに、不便によってもたらされる益とはどういうものかを説明し、それらを4種類の益に分類する。(全7話中第2話)
時間:07:54
収録日:2020/12/08
追加日:2021/04/30
≪全文≫

●不便がもたらすチャンスがある


 さらに別の学生の話もあります。その学生は、いつもは原付通学をしていたけれども、壊れてしまったので仕方なく不便な徒歩通学をしていました。そうすると、原付のときには気にも留めなかった食堂におやっと気がつきました。そこにふらっと入ったら、今ではお気に入りの食堂の一つになったそうです。

 バックパックで、1か月ヨーロッパに旅行をした学生もいました。そうした旅行でたいてい泊まるのは1泊2000~3000円の安宿です。そうした安宿には、たいていテレビはロビーに一台しかなく、宿泊客がシェアしなければいけない不便な方式です。

 しかし、その学生は慣れない英語でチャンネル争いに勝ち、日本のW杯戦をロビーで観たそうです。ところが観ていると、どうも隣に座っている人が自分とテンションが真逆だということにおやっと気がつきました。もしかしてと思ってふらっと話しかけてみると、案の定、対戦相手国出身の方だったそうです。すごく盛り上がって、今でもメールをやりとりしている友だちだと言っていました。

 この2つの事例は、実は根っこが同じだと思います。つまり、不便であるからこそふらっとやってみるチャンスをくれて、おやっと気づくチャンスをくれるのです。


●不便がモチベーションを向上させる


 これもまた学生の例ですが、就職氷河期の時の話です。多くの学生はなかなか内定が取れずに苦労していたのですが、ある学生が、かなり早い時期から外資系の内定を何個も取ってきました。コツは何だと聞いたところ、「新聞を取るのをやめたのがコツだ」と言っていました。

 それまでは、下宿に寝ていても勝手に新聞が放り込まれて、料金も銀行引き落としのため、読まずに下宿から出ることが多々あったそうです。それをやめて、毎朝自分の足でコンビニに行ってキャッシュで買うことにしました。キャッシュでわざわざ買ったので、読まずにポイと捨てることはあり得ません。ついつい読んでしまうと。それで時事に強くなり面接がへっちゃらになったそうで、それがコツだというのです。

 それから、もっと私たちみんなが知っている卑近な例、もっと分かりやすい例としてあるのが「おやつ」です。遠足のおやつは確か300円までだったと思います。子どもの頃...
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