●健康経営のあるべき姿
(健康経営は)そういう特徴を持った新しく出てきた概念であることが分かり、多くの企業の経営者の方々がぜひやろうという話になって、その取り組みが始まりました。
その中でも、うまくいくところと、なかなかうまくいかないところが分かれてきました。そこで、うまくいっているところはどうやっているのかという研究が今、蓄積されつつあります。そこから見られる「健康経営が機能するメカニズムはどういうものなのか」を皆さんと共有したいと思います。
ますは健康経営のあるべき姿ということで、上のスライドは、国として主導している経済産業省のヘルスケア産業課が出した「健康経営の推進について」という資料からの抜粋で、図は健康経営のあるべき姿です。
基盤に「企業理念」がありますが、そこにはそもそも長期的なビジョンに基づいた経営があります。持続可能であることがきちんと意識されていることが、まず健康経営のあるべき姿として明示されているのです。
そこに「人的資本に対する投資」をしていきます。従業員等への健康投資をしていくことによる企業への効果として、「従業員の健康増進、従業員の活力向上」から「経営課題解決に向けた基礎体力の向上」が挙げられています。そして、個々がそういう力を高めていけば、「組織の活性化や組織としての生産性の向上」につながります。そして、それはひいては「イノベーションの源泉の獲得や拡大」となり、それが「業績向上・企業価値向上」につながるということです。
その中で、派生的に「社会への効果」があります。国民のクオリティ・オブ・ライフ(生活の質)の向上、ヘルスケア産業の創出、あるべき国民医療費の実現も可能となります。医療費が今、膨大になっているので、それを抑えることにつながるのです。病気になる前にそれを抑える、つまり病気にならないようにすることで、医療費を抑えていくという考え方です。
そしてさらに、健康の直接的な効果だけではなく、優秀な人材を獲得し、人材の定着率を向上することで、企業の成長ポテンシャルを高めていきましょうという概念の説明があります。
●ジョンソン・エンド・ジョンソンにみる健康経営の効果
ただ、これだけ見ても、どうやったらうまくいくのかがなかなか分からないと思います。そこで、実際にやってきた企業の事例を見てみます。
先ほど申し上げた、海外の成功事例であるジョンソン・エンド・ジョンソンは今から10年前の2011年の『ニューズウィーク日本版』で紹介されて、かなり話題になりました。これによって、健康経営は儲かるということが実証されました。今まで産業保健の中で考えてきた日本企業からすると、それは義務・責務としてやるものであって「儲かるとはどういうことだ」と、かなり驚きをもって迎えられました。
どういうことかというと、これは非常に分かりやすいのですが、例えば人件費や設備費に1ドルの健康投資をします。人件費としては、健康・医療スタッフやそのための事務スタッフの充実や保健指導等の利用費、システム開発・運用費などに投資をします。設備費としては、診療施設やフィットネスルーム、充実した社員食堂などです。そうしたところに1ドル投資すると、3ドルのリターンがあるという、非常に分かりやすい例です。つまり、3倍のリターンがあるということです。
その内訳ですが、一番土台にあるのが「イメージアップ」です。ここですでにブランドとの親和性が示唆されているのですが、ブランド価値の向上と株価上昇を通じた企業価値の向上が挙げられています。
次に「リクルート効果」です。就職人気ランキングの順位上昇で、採用が非常に有利になります。コストも下がるし、価値も高まるということです。続いて、今いる従業員や家族も含めて、ロイヤリティが上がり、士気が上がります(「モチベーションの向上」)。また、疾病予防によって病気になった場合の手当の支払額が下がったりして、医療費も当然削減されます(「医療コスト削減」)。
そして「生産性の向上」です。まず欠勤率が下がります。プレゼンティーイズムは、出勤はしているけれど何か辛くてぼーっとしてしまうことによる生産性の低下を意味しますが、こういうものが解消されます。結果として、投資リターンは3倍になるというので、これが驚きをもって迎えられました。
それをまとめると、従業員の健康管理をしっかりすることによって、心身のストレスが軽減され、モチベーションがアップして、生産性が向上するというメカニズムです。それから従業員の健康不安に対するリクスマネジメントや、医療費負担の軽...