●健康経営+企業ブランディング=健康経営ブランディング
今日は「健康経営を企業ブランディングの枠組みで実践する」というタイトルでお話しさせていただきます。
今日の流れです。私はもともとビジネススクールでブランド・マネジメントやマーケティング、消費者行動論などを中心に研究してきました。ブランド・マネジメントはお客さまである消費者の方々を中心に分析をしていくことですが、そうした方々にどうサービスや製品を提供していくかというときには、必ずその組織の中の話も大事になってきます。組織の中と外を統合させ、その間を取り持つ役割をブランドが担うので、組織の中の話もしてきました。
そんな流れの中で、組織の中の人たちがいかにより良いサービスや製品をお客さまに届けることができるかを考える際に、それが持続的にできるかも最近では重要になっています。そしてこれには彼らの健康が非常に大事になってきます。そういう意味では、非常に自然に健康経営に取り組むことになります。これは新しい分野なので、今日も「健康経営とは何か」から皆さまと共有していきたいと思いますので、まず健康経営の話に入っていきます。
まず「健康経営とは?」を紹介します。その後で、健康経営が機能するメカニズムを説明します。本格的に健康経営をやっている会社はまだそんなに多くありませんが、とはいえ、ある程度こうしていくとうまくいくのではないかという方程式も出てきたので、それを紹介します。
その後ですが、もともと私が研究テーマとして健康経営に向かっていった理由が、企業ブランディングとの親和性なのですが、そのメカニズムが明らかになると、健康経営を実現するにあたって、やはり企業ブランディングの枠組みでやっていくことが非常に効果的であることが分かってきました。その考えや研究の成果を皆さんと共有します。これが3番目です。
そして次に、今回のテーマである健康経営と企業ブランディングを合わせて考えます。それが「健康経営ブランディング」という、まさに両方合わせたもので、その概念を共有します。これは概念というか、健康経営を推進するためのモデルなので、その考えを皆さんと共有します。
そして、そのモデルの中で一つカギとなる概念として、「ワーク・エンゲイジメント」があります。もしかしたら皆さんの中には、他のところでこの概念を聞いたり、すでに実践したりして、自らの組織の従業員の方とワーク・エンゲイジメントを高めるためにいろいろな施策をされている方もいるかもしれませんが、ここではワーク・エンゲイジメントがどういうものなのかを少し補足的に説明します。
そして最後に、健康経営ブランディングが持続可能な経営を実現してくれるものであり、それが螺旋状に上昇していくサイクルになっていることを、それまでの話をまとめる形で説明します。
●健康経営が注目されるようになった背景
それでは早速、「健康経営とは?」ということで話を続けていきたいと思います。
健康経営といわれ始めてから、少なくとも5年はたっています。海外から来た概念なので、海外ではさらにその5年ぐらい前から、特にアメリカを中心に広まっていった概念です。
日本の歴史の中、どういう背景で健康経営が出てきたのかというと、産業保健です。現在の厚生労働省が主導で、国として安全衛生を進めてきました。古くは工場法があり、工場で働く人びとがいかに安全に仕事ができるかという話がありました。それから、その時々の時代の要請を反映して、労働基準法、労働安全衛生法といった法的な裏づけがしっかりとありました。そのような中で、各社は産業保健体制をしっかり作っていくことに取り組んできました。これが健康経営の基盤であることは間違いありません。
一方、海外の動きとしては、例えばRosen and Bergerの『The Healthy Company』という本で、従業員の健康を投資としてもう少し戦略的に考えましょうという発想が出てきました。特にアメリカの場合は国民皆保険が充実していないので、企業のほうでそういうことをしっかりやっていかなければいけません。初期の事例として非常に有名なのがジョンソン・エンド・ジョンソン(Johnson & Johnson)です。そういった企業が健康経営によって業績を向上してきたというのが背景にあります。
日本では働き方改革があり、労働人口が減ってきている中、なんとか新しい労働力を考えなければいけない、既存の労働力をもっと大切に持続的なものにしていかなければいけないという考え方もありました。そうした中、今度は経済産業省が主導になって健康経営を進めてきました。...