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暗黙知を形式知化するための方法とは

知識創造戦略論~暗黙知から形式知へ(7)暗黙知を形式知化するために

遠山亮子
中央大学 大学院 戦略経営研究科 教授
情報・テキスト
暗黙知を形式知化するためには、メタファー、キーワード、オノマトペといったいくつかの方法が考えられる。それと同時に、形式知化するための条件もあり、インセンティブやコミットメントといったものが挙げられる。(全9話中第7話)
時間:10:41
収録日:2018/11/24
追加日:2019/08/29
≪全文≫

●暗黙知が消えてしまうという問題


 さて、前回、「競争優位の源泉としての暗黙知」というお話の中で「モノづくりは人づくりだ」という話をしましたが、暗黙知は人につきます。ところが実は今、日本企業が直面している問題は2007年問題というものです。

 2007年から団塊の世代がどんどん退職し始めます。暗黙知は人につくがゆえに、その人がいなくなってしまうとその人が持っている暗黙知も消えてしまうという問題が発生します。


●暗黙知を形式知化するための方法


 暗黙知から形式知にすることはどうしたらできるのでしょうか。メタファーを使うと、暗黙知とは雲のようなもので、ふわふわしてつかみどころがないのですが、形式知は、その中でつくられる雪の結晶のようなものです。雪の結晶は手で触れることができます。でも、どっちもH2Oで形が違います。どうやったら、その雲の中で雪の結晶ができるのかが暗黙知の形式知化の問題ですが、方法論にはいくつかあります。

 例えば対話です。人と話しているうちに、自分のもやもやとしたアイデアが形を取って、「そうそう、それ、私が考えてたの、それ」ということはありますよね。それは暗黙知が言葉になっていく過程です。対話によって暗黙知が形式知化されていきます。

 次に、観察です。人がやっていることを細かく観察して分析できることによって、職人の技が形式知化されることになります。

 それからキーワード。これは「モンタージュ技法」と呼ばれています。最近だと会社であまり使わないかもしれないですが、昔、「KJ法」というものがあって、発想法のやり方なのですが、頭の中に浮かんだキーワードをポストイットに書いていきます。たくさんキーワードを書いて、それをまとめてキーワード同士の関係性を図示化していくことによって新しいアイデアが生まれるという発想法ですが、そうしたやり方で、頭の中でもやもやしたアイデアを形にしていくことができるのです。

 それからメタファーやアナロジーです。メタファーは、先ほどの暗喩です。例えば暗黙知は概念ですが、それは雲のようなものです。これがメタファーです。アナロジーとは何々に似ているということですが、言葉でうまく表せないとき、例えば暗黙知を説明するのが難しいように、概念を説明するのが難しいときに、雲のようなものですという。時は金なりというのもメタファーで、時という見えないものをお金で表すと、非常に貴重なものだということが伝わります。だからこうしたものを使うというのも一つのやり方です。

 次にケース、物語、Anecdoteです。Anecdoteは小話ですが、暗黙知は、文脈がすごく重要で、背景情報がすごく重要です。だから抽象化してしまうと伝わらないことがあります。それを例えばケースとか物語、Anecdoteで表現すると、背景情報、文脈まで一緒に伝えることができるので、暗黙知を伝えるのに使われることがあります。

 次がオノマトペです。オノマトペは擬音です。日本語は非常にオノマトペが多い言語だといわれています。例えば、雨がざあざあ降るのか、しとしと降るのか、ぴちゃぴちゃ降るのか。感覚は暗黙知の世界に属するのですが、感覚を表すのにオノマトペが有効です。例えば、これがふわふわなのか、もこもこなのか、微妙な違いがあります。何をもってふわふわとするか、何をもってもこもことするかは微妙な違いですが、人間の手はその違いを分かっています。それをふわふわ、もこもこというオノマトペを使えば表現できます。

 最近、企業では人が何を「ふわふわ」といい、何を「もこもこ」というかをデータで計測し、そういうことをデータベースにしている会社もあります。

 言葉で伝わらなかったら、絵にしたり、イメージにしたり、クレイモデルにしたり、音楽にしたり、そういうのも暗黙知の表現方法としてはあるということです。


●インセンティブとモチベーション


 暗黙知の形式知化において考えなくてはいけないいくつかの条件があって、第一にインセンティブです。暗黙知を持っている人の場合、自分は困らないのです。別に形式知化しなくても使えます。でも、例えば会社は、その暗黙知を形式知化して他の人と共有してほしいのです。ただ、暗黙知を形式知にするには時間もエネルギーもかかりますよね。では暗黙知を持っている人にとって、暗黙知をわざわざ形式知にするためのインセンティブは何ですかという話になります。

 もちろん金銭的なインセンティブもあります。これをやったらボーナスがもらえますよとか、給料が上がりますよというものですが、実は、そうしたモチベーションには2種類あって、一つは「外的動機(extrinsic motivation)」と呼ばれるもので、外から来るモチベーションです。これをやったら給料が...
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