10MTVオピニオン|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録
10MTVオピニオンは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

日本ロシュにおけるSECIプロセスの事例分析

知識創造戦略論(9)日本ロシュのプロジェクト分析

遠山亮子
中央大学 ビジネススクール大学院 戦略経営研究科 教授
情報・テキスト
日本でのSECIモデルの事例分析として、日本ロシュが取り上げられる。MRという薬の営業は、暗黙知が多く、優秀なMRと平均的なMRには大きな差があった。そこで、優秀なMRが集められ、形式知が始まった。(全9話中9話)
時間:15:46
収録日:2018/11/24
追加日:2019/08/29
キーワード:
≪全文≫

●暗黙知と形式知のスパイラルアップによって知識が生まれる


 シリーズ内でも以前に引用しましたが、ここで再びトヨタの奥田会長の言葉を引用します。

「IT化により、暗黙知だったものが形式知に移っていくことが出てくるかもしれません。しかし、移っていくけれども、新しい暗黙知もどんどん出てくるわけです」

 だからこれは自動的に出てくるわけではなく、暗黙知の蓄積を強調した共同化をきちんとやらないと出てこないのです。

 そして暗黙知が出てきます。

「当時の社長の渡辺は、暗黙知と形式知がうまくスパイラルアップしていくことで向上する」

 つまり暗黙知だけあっても、形式知だけあっても、駄目なのです。暗黙知と形式知のスパイラルアップで新しい知識ができるということになるわけです。


●日本ロシュにおけるSECIプロセスの事例分析


 もう一つ、SECIプロセスの一例を説明します。

 これは日本ロシュという製薬会社でやったプロジェクトです。ロシュはスイスにある製薬会社で、日本ロシュはその子会社です。その後、ロシュは中外製薬を買ったので、日本でのオペレーションは今、中外製薬の方がやっています。だから日本ロシュという会社自体はもうないのですが、この日本ロシュがまだあった時に、実は社長直轄の「名人芸移植プロジェクト」というものがあって、彼らは「Super Skill Transfer(SST)」と呼んでいます。何かというと、薬の営業はMR(医薬情報担当者)が行うのですが、このMRのスキルは非常に暗黙知ベースで、いわば先ほどからお話ししている営業スキルなのです。これは個人によって、ものすごく大きな差があります。


●薬の営業は四段階に分けられる


 これが優秀なMRと平均的なMRのスキルを比較したものです。MRの活動は四段階に分かれていて、最初は製品や学術知識を取り入れます。この薬はどういう薬で、どういう病気が、どうしてこういう病気が起こって、なぜこの薬は効くのかという知識がないと営業活動できないので、その知識を取り入れる段階です。

 次にターゲティングといって、どのお医者さまに話に行くのか、あるいはどこに話に行くのか。医者の世界はいろいろ複雑なので、最初に話に行く人を間違えると、後々、大変なのです。でも非常に影響力が高いお医者さんなので、このお医者さまが、この薬を採用してくれたら、他のお医者さんもそれに倣うとか、いろいろあるわけです。だから、どこにまず話に行くのかというターゲティングの段階があります。

 それからアクセスです。実際に、そのお医者さまの所に行って、ここがブラックボックスとなっていますが、医者も忙しいので、忙しいときに行っても話を聞いてくれないわけです。でも医者は医者で話を聞きたいなと思っているタイミングがあって、そのタイミングに、うまくはまると話を聞いてくれます。

 営業はそういうところがあります。例えば、私も時々、服を買いに行くのですが、店員さんが「何かお探しですか」とすぐ寄ってきます。時々「うざいな」と思うのですが、でも自分が「これ、試着してみたいな」と思うときに店員さんが周りにいないと、ちょっと買いたいなと思っていたのにやめようかなということにもなります。うまい店員さんは話し掛けるタイミングが絶妙なのです。

 それと同じで、やっぱりそういうタイミング、医者にとって聞きたいと思うタイミングにアクセスすることがすごく重要なのです。これはブラックボックスで、優秀なMRと平均的なMRの能力にはものすごい差があるのですが、どうしてそうなるのかが分かりません。なぜ優秀なMRは、アクセスがうまいのかが分からないのです。

 それからディテーリングです。実際に、その医者について、その薬について営業活動をするというのがディテーリングです。

 この4つの段階において、それぞれ優秀なMRと平均的なMRの活動に大きな差があって、しかもアクセスのところで、大きな差があるのです。


●エースMRが本社に集められ、表出化に向かう


 この優秀なMRが持っている高質の暗黙知を他の人に移転できたら、会社全体が良くなるよねというのがプロジェクトです。そのために、社長命令によって、まず24人の、いわゆる「エースMR」と呼ばれる人たちが支店から本社に集められたのですが、この社長命令というのが鍵で、実際、このプロジェクトは1年前に似たようなプロジェクトを一回やっていて、その時には大失敗しました。

 なぜか。その時は支店に、「優秀な人をちょっと本社に送ってきてください」と頼みました。ところが優秀なMRは、その支店にとっては稼ぎ頭なので...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。