●創造の基本図式「ウォーラスの4段階説」
創造におけるバイアスについて、これからお話ししようと思います。
創造についてお話しするときに、いろいろな人が最初に参照するのが、スライドに書いてある、グレアム・ウォーラスという人の唱えた創造の基本図式である「4段階説」です。
彼の考え方によると、最初は「準備」の段階といいます。何か見た途端、パッと出たというのは創造とはいわないわけです。創造するために、「こうじゃないか、ああじゃないか」と相当に苦しむわけです。そのことを「準備」といっています。私たちの研究の領域では「インパス」(日本語で「行き詰まり」)という言葉を使ったりします。そうやって苦しんで、どうやってもうまくいかない中で作業をしている段階です。
そうすると、ウォーラスの考え方では次に「あたため」という段階があるということです。あたためというのはどういうことかというと、一生懸命取り組んでいる作業とは別の作業を行うことです。休憩を取ることでもいいし、お茶を飲むことでもいい。お風呂に入ることでもいいかもしれません。そのように、今苦しんでいる作業とは別のことをやっている段階です。
そうすると、そういう段階を経て、あるときに突然パッと「ひらめき」が訪れるというのです。
そして、ひらめいた後は、そのひらめきが本当に適切なものなのか、正しいものなのかということの「検証」が続くと、ウォーラスは考えています。
分かりやすい例として、どのくらい本当かはよく分からないのですが、アルキメデスは王様に「王冠が純金でできているのか、それとも混ぜ物になっているのか、ちゃんと調べろ」と言われて、どうやっていいかよく分からず苦しんでいました。これが「準備」の段階になります。それで疲れ果ててお風呂に入りました。これが「あたため」の段階です。そうするとお風呂の水がザーッと出て、そこで突然「ひらめき」が訪れるということになります。こういう例がイメージされるといいかと思います。
「検証」もすごく大事なのです。科学的な研究というと、本当の意味で研究のレベルでやると、ひらめきだけで問題が解けるということはまずありません。それが本当にそうなのかということを実験とか、観察とか、計算をやって検証していかなければいけないのです。ただ、私たちの認知科学などの研究の分野では、検証は一般的な思考の働きとあまり変わりがないので、今回は詳しく取り上げません。
ということで、まずこのようなイメージを持っていただくといいと思います。
●パズルを使った「ひらめき」の研究
では、認知科学ではどんな方法で創造の研究をやっているのか。私たちはアルキメデスの伝記を読んだりはしません。普通の人を被験者(最近は「実験参加者」といいます)として実験室に招き入れて、ある課題を解いてもらいます。ひらめきを要するような課題を解いてもらうという形で実験を行います。
スライドに3つ、代表的なものを挙げておきました。左側のものはパズル系統とスライドに書いてありますが、これは何かというと、Tパズルです。ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、左側の4枚のピースを使って右のようなきれいなTの形をつくるというものです。一見、非常に簡単そうに見えるのですが、これを見た途端に解ける人は(ほとんど)いません。私たちも、何百人かにこのパズルを使った実験をするという研究をやっていますが、10人から20人に1人くらいが15分以内で解けるという感じです。ちなみに、私は30分~40分かかっていたと思います。ちゃんと測っていないですが、すごく時間がかかりました。
正解は何かというと、こう(下のように)なります。
つまり、五角形の妙な形のへこみの使い方に、あまり人は気づけない。だから、なかなか問題が解けないということが起きるのです。問題はその過程でどういうことをやっているのかです。中にはひらめく人たちもいて、その人たちがひらめく直前にどういうことをやっていたのか、また、ひらめきに貢献するような情報を与えたときにはどのように問題解決が進むのか、といったことを研究します。
(次に)真ん中にあるのは、ナゾナゾ系統というものです。これは遠隔連想課題(リモート・アソシエーション・テスト)というのですが、上のほうに「課長・宿敵・問答」と出ています。上の漢字の「課・宿・問」の後に1つだけ漢字をつけて、日本語の単語になるようにしてください、というものです。どうでしょうか。
これはおそらく、比較的簡単に思いつくのではないかと思います。答えはこう(下のように)なります。