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ホモ・サピエンスの進化に貢献した「共同」のパワーとは

認知バイアス~その仕組みと可能性(5)共同のバイアス〈前編〉

鈴木宏昭
元青山学院大学 教育人間科学部教育学科 教授/博士(教育学)
情報・テキスト
私たちは他者との「共同」を前提にして、日常生活を送っている。その共同の中にもさまざまなバイアスが潜んでいるが、ホモ・サピエンスの進化、成功を支えたのは共同のパワーではないかと考えられている。そこで今回は、薄め効果、ホームベース仮説、模倣、言語による文化的学習など、共同のポジティブな面に焦点を当てて解説する。(全7話中第5話)
時間:10:19
収録日:2022/05/26
追加日:2022/11/08
カテゴリー:
キーワード:
≪全文≫

●私たちの日常生活は「共同」を前提にしている


 共同のバイアスについて、お話ししていきたいと思います。

 人は1人で何かをするときもあるのですが、大概、他の人と何らかの関わりを持ちながら、いろいろな生活をしているわけです。ここにもバイアスというものが関わってきます。まず、バイアスの話に入る前に、「共同」というもののポジティブな面についてお話ししたいと思います。

 共同というと、すぐ会議やミーティングのようなことを思われるかもしれないのですが、私たちの日常生活は基本的には共同というものを前提にして生きています。

 例えば、出勤するとき。出勤は1人でするから別に関係ないと思うかもしれませんが、着替えをしますよね。着替えるということは、服がなければいけません。では服は自分で作ったのかといったら、そんな人は誰もいないでしょう。服を作る人がいます。そして、それを買ったお店で販売している人もいます。もちろん、服を作る会社だって何から何まで全部自分たちでやっているわけではなく、素材は別の会社から買っていたり、それを織り上げたり縫ったりする機械はまた別の会社でというように、いろいろな人たちの分業体制があります。その総体を「共同」とここではいっています。そういうものが私たちの生活を成り立たせています。ロビンソン・クルーソーのような生活というのはあり得ないわけです。


●人間も動物も個体の習性の蓄積が意図しない共同を生み出す


 これは人間の話なのですが、動物たちの中でももちろん共同する動物たちがいます。

 シロアリは非常に大きな蟻塚というものを作るといわれています。5ミリに満たないような生き物が4、5メートルもあるような蟻塚を作ったりするわけです。だいたい1000倍ですから、人間でいえば1600メートルの建物を作るということです。そんな高い建物は世界中どこにもありません。そういうものを作っているのと同じくらいのことを5ミリほどの昆虫がやっているわけです。

 アリたちの面白いのは、「みんなで作ろう」と言って作っているわけではない点です。「おまえはこっちをやれ」ということはまったくなく、いわばノープランのようにやっているわけです。単純にアリたちは自分の排泄物を撒き散らしていくわけですが、そうするとその排泄物には特有の化学物質が含まれていて、それがニオイとして別のアリに検知されます。アリはどういう理由か分からないけれども、そのニオイの濃度の高いところに排泄物を置いていく、そういう習性があるのです。そうすると、たまたま高くなったところにアリが集まって、そこに排泄物をどんどんどんどん置いていき、どんどんどんどん高いものができてくるということです。

 意図しなくても非常に多数の個体が同じ習性を持って生きているということで、こういう共同ができてくるのです。

 それから人間の場合、これが共同なのかと思われるかもしれませんが、私が好きな例に、渋谷のスクランブル交差点があります。

 私の勤める大学が渋谷駅から近くにあるので、毎日のようにここを使っています。スクランブル交差点はご存じだと思いますが、信号が青になると12方向に大量の人間がワッと一挙に動き出します。さぞや大混乱が起きるのかと思いきや、混乱は基本的に何も起きません。衝突してケンカになったり、渋滞になって動かなくなったりというようことは絶対に起こらないのです。

 これも、アリと割と似ているのですが、誰もここの歩き方を教わったりしてないのです。しかし、あるやり方、基本的には(前の)人の後ろについていくということなのですが、それをやることによって、ある程度までスムーズに、渋滞も衝突も起こさない移動が可能になっているということです。これは意図せずにこういうことができるということです。共同の持つパワー、秩序が生み出されているということです。

 それから、共同はホモ・サピエンスの進化にも非常に大きかったのです。人間は一定規模の集団を作って暮らしているのですが、要するに、その(共同の)パワーがホモ・サピエンスも含めたホモ属の成功を支えたのではないかといわれているのです。


●共同の力――薄め効果・ホームベース仮説・模倣・言語による文化的学習


 動物で集団を作るというのは別にホモ・サピエンスに限ったことではなくて、いろいろな生物がやります。先ほどのアリもそうです。では、こういうことをやると何がいいのでしょうか。

 スライドの「薄め効果」は、集団でいると捕食される確率が小さくなると...
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