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代表性ヒューリスティック…差別や偏見につながるバイアス

〈続〉認知バイアス~その仕組みと可能性(2)概念のバイアス〈後編〉

鈴木宏昭
青山学院大学 教育人間科学部教育学科 教授
情報・テキスト
なぜ多くの人が、「連言錯誤」といった非論理的な推論をしてしまうのだろうか。そこには、経験の少ない、あるいは馴染みのない概念への判断に潜む「代表性ヒューリスティック」というバイアスが深く関わっている。差別や偏見にもつながりかねないこのバイアスの原因や危険性を掘り下げる。(全5話中第2話)
時間:14:41
収録日:2023/01/23
追加日:2023/04/14
カテゴリー:
≪全文≫

●経験の少ないカテゴリーへの判断に潜む「代表性ヒューリスティック」


 非常に多くの研究者が概念とは何かということをずっと研究してきています。いろいろな学説があるのですが、多くの教科書に書かれていることをここでご紹介します。概念というのはプロトタイプとして心の中に存在しています。つまり、多くの事例が共通に持つ特徴のようなものなのです。あるいはそういう多くの事例が共通に持つ特徴をいっぱい持っているような事例などです。要するに、それっぽさ、それらしさみたいなものを表すものなのです。

 こういう研究をやるときに、よく私たちは「事例を列挙してください」というようなことをやるのです。そうするとプロトタイプに近いようなものほど最初に出てくるのです。例えば、果物をできるだけたくさん、早く挙げてくださいと言われたときに、最初にキウイ、2番目にパイナップルという人はあまり多くいないでしょう。リンゴ、ミカン、モモ、ナシ。似たような形をしていて、大きさもほぼ似ています。そういうものが果物のプロトタイプみたいなものになっているわけです。

 そして、私たちが持っている概念の形としてのプロトタイプと目の前のものが一定以上類似していれば、その目の前のものは、そのプロトタイプが表すカテゴリーのメンバーであると、カテゴリー化するわけです。丸っこい、ちょっといい匂いがするようなものがあると「果物かな」と思ったりするわけです。要するに、プロトタイプとの類似性というものがカテゴリー化というものを支えているわけなのです。

 そして、時計であるとか、あるいは果物、犬など、日常的な概念は、最初に申し上げたように、それについてのものすごくたくさんの経験をしているわけです。ですから、概ね正しいカテゴリー化ができるわけです。ミカンを見て大根だとか、そういう間違いをする人はどこにもいないわけです。

 しかし、私たちが出会うものは、いつでも私たちが大量の経験を重ねてきたものとは限りません。そういうときに働くのが代表性ヒューリスティックというものなのです。そのカテゴリーに属するプロトタイプではなくて、代表例です。代表例をプロトタイプの代わりに使って、それとの類似度というもので目の前のものが何かとか、どんな働きをするのかとかいうことを考えたりする。それが代表性ヒューリスティックスなのです。これがまさにリンダ問題とか、教授問題として最初に挙げたものの間違いを支えており、間違いに導いている可能性がとても高いのです。

 リンダ問題は、リンダはどちらのカテゴリーに属する可能性が高いかという問題としても考えられます。2つの確率を求めるということは、リンダはフェミニストの銀行員というカテゴリーに属するのか、銀行員というカテゴリーに属するのかということです。その際、リンダさんのあの記述を事前に読むと、銀行員はけっこう合っているので、プロトタイプはあるかもしれません(正しいかどうかはちょっと分からないですが)。それと、どう考えても類似していそうもない、哲学をやって銀行に勤めるとか、「デモに行かないでしょ、普通」というふうに考えてしまうわけです。

 一方、これがフェミニストだったら、それはやるなと思うわけです。それはフェミニストの代表例を私たちが思い浮かべるからなのです。私も含めて、皆さんもだと思いますが、特殊な人を除いて、フェミニストの方と数百人知り合いだという方はほとんどいらっしゃらないのではないかと思うのです。そうすると、フェミニストとして有名な人とか、あるいはその人のことを知っている友人からの伝聞とか、そういったことに基づいて代表例を作ると、それとの類似性がリンダさんは高い。だからフェミニストの銀行員なのではないか考えるわけです。

 教授問題もそうで、コンピュータの本を書く人の代表例です。これもコンピュータの本を書く人というのを数百人単位でご存じの方はほとんどいらっしゃらないと思いますが、それっぽい、代表例になるような人、具体的な人であるとか、その人についての伝聞とか、そういったものによって代表例が作られます。その代表例と、先ほどの田中さんは似ている。一方、文学部教授のプロトタイプとは似ていない(もしかしたら代表例かもしれませんが、似ていない)。そういうことで連言錯誤が出てくるわけです。


●メディアからつくられる代表例のイメージがバイアスを生む


 ところで、この代表例というのがどんなサンプルからつくられているのかというと、私たちが頼るのはメディアなのです。サンプルが少ない場合にはメディアに出...
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