●演繹推論に潜む認知バイアスを暴く「ウェイソンの選択課題」
最初は、演繹推論です。問題が次に出てきます。
これは大変有名な、半世紀くらい前につくられた問題で、「ウェイソンの選択課題」や「4枚カード問題」と呼ばれるものです。下に4枚のカードがあります。このカードの片面には数字、そしてもう片面(裏)には平仮名、あるいは片仮名が書かれています。さてこのカードは片面が奇数だったらその裏は平仮名になっています。そういうふうに作られているといわれています。本当にそうなっているかどうかを調べるためにはどのカードを裏返してみる必要があるでしょうか。何枚裏返してもかまわないのですが、必要最小限の枚数にします。もちろん、全部を裏返せば分かるわけですが、必要最小限というところもポイントです。
さあ、ほんの少しだけですが考えてみてください。短い時間ですと、恐らく多くの人は「3」と「う」だと思うのではないかと思います。ただ、こういう認知バイアスという文脈で出ている問題だから、「3」と「う」と直感で分かる問題は出さないから、何かなと悩んで時間切れ、という感じになる方が多いのではないかと思います。
ですので、正解は「3」と「う」ではありません。「3」と「キ」です。まず「3」についてです。奇数の裏は平仮名であると言っているのですから、奇数のカードは裏返して平仮名になっているかということを確かめなければいけません。これは間違いありません。「3」を選ばない人はほとんどいません。「8」はどうでしょうか。「8」を選ぶ人は少ないと思います。偶数の裏については何も言っていないのですから、偶数は別に裏返す必要はないということなのです。
そして、問題の「う」です。これは裏返したくなるのですが、実は裏返した結果が偶数でも、奇数でもどっちでもいいわけです。奇数の裏だったら平仮名です。ほらそうでしょ、確かに、と言えると思うのですが、偶数だったら言ったことが間違いになっている、規則に反したカードになっているというわけではないわけです。どっちでもいいから裏返さなくていいわけです。
一方、一番右の片仮名の「キ」のカードは、これは裏返さなければならないのです。どうしてかというと、もしこれを裏返したときに奇数だったとしたら、奇数の裏が片仮名になってしまいます。ですので、そうなっていないかどうかということをチェックしなければいけないわけです。
●「確証バイアス」が初歩的な論理を見誤らせる
どうでしょうか、皆さん。「3」と「キ」を短い時間で選べた方は相当に鋭い方だと思います。一般的に大学生の正答率は10パーセント内外と言われていますので、大変難しい問題なわけです。大変難しい問題なので、間違えてもしょうがないと思っていらっしゃる方もいるのですが、少し残念なことを伝えなければいけないのは、実はこの問題は演繹の基本というよりは、基本中の基本で、論理学の本の1ページ目に出てくる「あいうえお」並みの問題なのです。
これは、最初のものは前件肯定式といい、P→Q(PならばQ)です。これはどういうふうに読むかというと、PならばQというのが成立して、そしてPが成立しています。線が引いてあり、そこから必ずQが成立するということを表しています。PならばQで、Pが成立していたら必ずQは成立していなければいけないというものです。これは皆さん、できたわけです。
ところが、この後件否定式のほうができないわけです。PならばQというときに、notQ、つまり平仮名ではなく片仮名ということです。この場合には、必ずnotPにならないとダメだということなのです。これは論理学の最初に出てくると申し上げました。これを最初に行ったのはピーター・ウェイソンという研究者なのですけど、これが報告されたときにはみんながものすごくびっくりして、いろいろな国での追試で、本当にそうなのかということを確かめる研究がされました。ところが、どこの国でやってもそんなものなのです。
ウェイソンはイギリスの研究者で、彼がこの実験をやった時代の大学進学率はおそらく7、8パーセントぐらいしかありません。本当に選ばれた人しか大学に行かないのです。すごく頭のいい人たちです。その人たちの大半が、この論理学の最初の問題で間違えてしまうのです。これはいったいどういうことなのだろうかということで大変注目を集めました。
先ほどの解説ではピンとこない方もいらっしゃると思うので、もっと分かりやすく、図で解説してみたいと思います。Pがあります。PならばQ...