●新型コロナウイルスは株式市場に恐怖をもたらした
小原 もう1つがニューヨークの株価暴落です。これについて、面白い表があります。
CNNが毎日のように出しているものです。株式市場とは要するに、ブル(相場の上昇)かベア(相場の下落)か、です。
―― 強気か弱気か、ということですね。
小原 そうです。あるいは、グリード(欲望)、すなわち強欲なのか恐怖なのか、という選択です。そのインデックスを作って100で表します。100になると、強欲が強い状況です。
―― 一番株価が高いときですね。
小原 そうです。みんなが買いに走り、熱くなっています。それに対して、これが0になると、恐怖そのものです。恐怖に圧倒されています。この数字を、いろいろな要素を加味して、毎日発表しています。これが、2020年3月時点で、5~4になりました。
―― 0が最もひどい恐怖状態ということですよね。ほぼ恐怖であると。
小原 そうです。株式市場をほぼ恐怖が支配しているのです。11年以上も上昇状態が続いたので、どこかで終わりが来るのではないかと、関係者や投資家は誰もが考えていました。例えば、10年国債の利回りが1パーセントを切った時は、衰退への足音が聞こえてきているのではないかと言われていました。こうした不安によって、先ほどのグラフでいえば数値的には50前後を行き来していたのですが、今回の感染症の問題で、雪崩現象のように恐怖が一気に膨れ上がりました。凍りついたような状態です。
●不確実な世界経済のなか、各国の政府はどういった対策が取れるのか
小原 こうした株価の暴落は、大統領選挙にも影響します。トランプ大統領は、世界中のどこで首脳会議をしていても、アメリカの株価を常にチェックしています。それがここまで落ちたということは、どうしても対処したいのでしょう。この株価の暴落は、今回の感染症の拡大と重なって生じており、世界経済も不確実になっています。
不確実ななかで、各国政府はどういった対策が取れるのかということが、シリーズ内で言っているジレンマの問題と深く関係してきます。要するに、健康の問題から厳しいソーシャル・ディスタンスを緩めずに処置していくと、経済的に悪い影響を与えてしまうというジレンマです。そのなかで、操業を再開するまでに、経済をギリギリ保たせていかなければなりません。そうなると、金を配るしかないのでしょう。
日本も、とにかくまずはソーシャルセーフティーネットを整備する必要があります。職を失った人や収入がなくなった人のために、とにかく“現ナマ”を与えて、毎日暮らしていけるようにしてあげるということです。それなりの購買力を保っていかないと生産も落ちてしまうので、この辺りのことをやらなければなりません。しかし問題は、どこまでやれば良いのかということです。いつまでも続けていられません。なんとか早く正常化したいのです。
●ワクチン開発には時間がかかる
小原 結局のところそのきっかけとなるのは、ワクチンでしょう。ところがワクチンの開発には、時間がかかります。開発は進んでおり、いくつかのワクチン候補は出てきているのですが、実際にこれを使うためには、安全性の確認や副作用の有無、どの程度効果があるのかについて、実験をして試してみなければなりません。試すことには、かなりの時間がかかります。
さらに、ようやく完成したとしても、それを大量生産しなければなりません。そして実際に配る際には、優先順位を決めて、逼迫した病院など、世界中の必要な人全員に配らなければなりません。一般に、ワクチン開発にかかる期間は1年から18ヶ月といわれています。そうすると、2020年2月に感染拡大が起こったので、それから1年~1年半後ということになります。年内の開発は非常に難しい状況だということです。一番早くても来年なのです。今年(2020年)はなんとか第一波を抑え、第二波、第三波が来ないようにすることが求められます。経済もうまく維持しながら、ワクチンが完成するのを待たなければなりません。今年は、そうした非常に厳しい年になるのではないかと考えています。
●スペイン風邪の教訓は参考になる
―― スペイン風邪の時も、期間としてはかなり長かったですよね。
小原 そうなんです。スペイン風邪の時、アメリカは徹底的に研究し、とても分厚い報告書を出しています。
―― 当時の資料が読めるわけですね。
小原 1918年から1919年に、スペインインフルエンザ(風邪ではなくてインフルエンザです)が拡大したのですが、世界中で5000万人が死んだといわれています。アメリカは、43の都市で24週間、ワクチンがない非医薬的介入を政府がどのように行い、どのような効...