●グローバルなサプライチェーンにほころびが見られる
小原 世界経済については、どの国にもある共通の問題として、感染症が及ぼす影響を考える必要があるでしょう。1つはデマンドサイド(需要側)で、もう1つはサプライサイド(供給側)です。
デマンドサイドについては、先ほど説明した通り、すでに非常に落ち込んでいます。サプライサイドは、グローバルなサプライチェーンができています。このサプライチェーンが、いろいろな点で非常に大きな影響を受けています。例えば、アメリカでは現在、医薬品の需要が非常に高まっています。しかし、ある統計によれば、一部が医薬品であるものも含めるとその80パーセントが中国と関係しているということです。そう考えると、もう貿易戦争などやっている場合ではないのです。
ドナルド・トランプ大統領も、こうした製品については関税を下げると言いましたが、サプライチェーンは、いろいろなところでいろいろな物を作り、それを合体させることで成立しています。そのため生産を増やそうとしても、ある工場に人が戻らず、サプライチェーンの一部分がストップしてしまうので、求められる十分な量を作れません。
例えば人工呼吸器がそうです。アメリカのPhilipという会社が作っているのですが、これは巨大メーカーです。世界中にサプライチェーンがあり、いろいろなものを作り、それを全部合わせて最終的に人工呼吸器ができます。しかし現在、これがなかなか作れない状況にあるというのです。トランプから増産せよと言われても、サプライチェーンのどこかで引っかかってしまうと、作れないのです。こうしたサプライチェーンの問題は、ある種のディスラプションです。
●サプライチェーンの破綻に政府や企業はどう対処するか
小原 実は先日も、日中韓でテレビ会議を行いました。私は日本側で参加したのですが、トヨタを含めた日本の自動車工場は、現在休業しています。その原因の1つは、中国からの部品が届かないためです。ここでもサプライチェーンができています。韓国の自動車産業も同様です。
ですから問題は、どうやって中国にある自社工場、東南アジアにある工場、そして自国の工場によってできているサプライチェーンを動かすのかということです。これを解決するのが重要になっています。数年後に同じような別のウイルスによる問題が起こったときに備えて、政府のみならず企業がどう対応していくかを考えなければなりません。
例えば、デジタルサプライチェーンを設けて、さまざまなデータを用いながらサプライチェーンのあり方を再検証し、複数のオプションをつくるという選択肢があります。これにより、ある場所で問題が起きた際に、代替としてどこでカバーするかを想定できます。こうした頭の訓練を行う必要があります。
今回の問題が終息した後も、「やっと終わった」と安心するだけでなく、教訓を踏まえて、そのノウハウや経験をパートナー企業と共有し、戦略的なサプライチェーンをつくり直さなければなりません。感染症に対するレジリエンス(強靭性)のある体制を、特に製造業はつくる必要があるのです。東日本大震災の時、この問題が生じました。しかし実際、企業が真剣にこの問題に対応してきたかといえば、今回を見ている限りそうではないようです。
●今回は、感染症とは違った2つの大きな悪い要素が重なっている
小原 そうしたことに加えて、今回はさらに2つの、大きな悪い要素が重なっています。1つ目は、石油価格の暴落で、2つ目がアメリカの株式市場の暴落です。この2つは、感染症と絡めて議論することも重要なのですが、それとは違った要素もあります。
石油価格の暴落の場合、これは明らかに世界の石油シェアを争うサウジアラビアとロシアの覇権争いが関連しており、その背後には、アメリカのシェールガスがあります。この3者がもつれ合う形で、今回の暴落が生じました。
●石油価格暴落の背景には3大石油大国の覇権をかけた戦いがある
―― シェールガスの場合は、コストがある程度高くなっているので、それをつぶすために石油価格を下げていっているということでしょうか。
小原 その通りです。ロシアは実際にそれを狙っていました。OPEC+という枠組みも、これには関連しています。OPEC+の盟主はサウジアラビアで、圧倒的なプレゼンスを誇ります。この間にもOPECの会議があり、私はそれを見ていたのですが、サウジアラビアの圧倒的な存在感を感じました。議長も含めて、要人は全てサウジアラビアで占められていました。
それに対して、OPEC+の「+」の中で最大の国がロシアです。サウジアラビアとロシアの間では、2020年3月に石油減産協議がなされたのですが、決裂してしまいました。実はこれまで、ロシアは減産協議を受け入れてきました。これによ...