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初動に失敗した中国の新型コロナ対応はその後どうなったのか

世界の新型コロナ対応を俯瞰する(1)中国の対応

情報・テキスト
中国の新型コロナウイルスへの対応は、初動に失敗したが、その後、本当にうまくいっているのか。これについては、SARSでの教訓の活用や、プロパガンダへの利用、サプライチェーンの問題など、多面的な評価から判断する必要がある。特に考えなければいけないのは潜在的感染者の存在である。(全6話中第1話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:13:00
収録日:2020/04/09
追加日:2020/05/13
≪全文≫

●初動に失敗した中国と世界の状況が逆転している


―― 今回、特に先生にお訊きしたいのは、中国は本当にうまくいっているのかということです。2020年4月14日に、終息宣言が出ました。しかし、深センで作っている任天堂の「Nintendo Switch」は発売停止になっています。これについては、供給側に問題があるのか、あるいは需要が多すぎるのか、分かりませんが、ともかく、初動に失敗したけれども、途中からうまく行き始めたということです。たしかにWeiboのシステムなどは非常によくできている感じはします。こうしたことに関して、中国の今の状況をお伺いしたいのですが、いかがでしょうか。

小原 今ご質問のあった、中国の対応についてお話しします。ご存じのように、SARSの流行が2003年にありました。本当は2002年11月に起こっていたのですが、それについて情報を出さなかったという批判があったのです。実際に中国がこの情報を出し始めたのは、2003年3月頃でした。この間、非常に大きな悪い影響を与えたと思います。

 今回の対応を見ていると、中国はこの時の「失敗」を学んでいなかったのではないかと、かなり厳しい批判があります。今回も、やはり初動で失敗をしたからです。李文亮という若い医師の叫びも握りつぶしてしまい、情報公開や情報の透明性に非常に大きな問題があると批判されました。これは体制の構造から来る問題だともいわれました。

 おっしゃったように、その後は非常にうまくやっているようです。中国が公開した数字をどう見るかについては、また問題があるのですが。中国は今、ある意味で状況を逆転しました。つまり、中国の問題が今や世界の問題になり、中国は終息に向けて進んでいるというのです。


●プロパガンダによって中国に優位な体制を作り出そうとしている


小原 そうすると、習近平国家主席は新型コロナウイルスのことを“悪魔”と呼んでいるのですが、「われわれ中国民族はその敵との人民戦争に打ち勝ったんだ」という宣言を、世界に先駆けて高らかに発信できることになります。つまり、中国の共産党系のメディア等でもすでに発信されていますが、われわれの制度は非常に優勢なのだということを誇っているのです。

 ソ連が崩壊した後、まさにフランシス・フクヤマ氏の言った「歴史の終わり」のように、これからは自由で、民主主義によるリベラルな資本主義が世界を覆うのだといわれていました。しかし、中国は、「そうではない。中国共産党が指導する権威主義システムが、こうした危機にはむしろ優勢で、皆さんを救えるのはわれわれなのだ」と主張しています。中国からすれば、「今欧米で何が起きているかを見てみなさい。あんな体たらくじゃないか」ということで、中国のシステムのほうが優勢であるという図式を今、プロパガンダでどんどん作り出そうとしています。


●SARS以降、中国なりにシステムを改善させてきた


小原 しかし、ひょっとしたらこうした流れに動かされて、中国は実際にうまくやっているのかもしれません。先ほどのSARSの話もそうでしたが、中国自身、その後、何も学んでいないわけではないのです。あの体制の国でも、それなりに学べることがあれば、吸収していこうという、かなりしたたかな姿勢が見られます。

 おそらくSARS以降も、感染症は起こっているでしょう。私が見る限りは、それをきちっと乗り切ってきています。これは、サーベイランス(発生動向調査)システムによるものでしょう。病原菌との戦いの中で、それらをウオッチしていち早く発見し、対応していくシステムづくりを行ってきました。そこでは同時に、医療や衛生面での体制作りにも寄与してきました。専門家達も明らかにそう言っています。そうした意味で、前回と比べて中国の状況はかなり改善してきているわけです。

 今回の場合、いわゆる「レポーティング」といわれる、正確な情報をしっかり把握し、それを即座にトップに伝えるという仕組みが、おそらくできていなかったのでしょう。ただし、武漢の大流行で失われた時間は大きかったものの、これに対する措置は非常に速やかかつ徹底したものでした。武漢の完全封鎖に関して、私もいくつかの動画を観ましたが、他の国はあれだけの封鎖はなかなかできません。そうした意味で、中国は今後も、かなりうまく取り組んでいくのではないかと思います。


●世界での中国の影響力は事実に基づいた行動が取れるかにかかっている


小原 ただ問題なのは、現在の中国政府は、プロパガンダによる新しい動きを見せている点です。「マスク外交」などといわれていますが、自分たちは世界に向けていろいろな支援もできるということをアピールし、「ソフト・パワー」ともいえるパブリック・ディプロマシーを進めているのです。こうしたイメージづくりが本当にうまくいっているのかどうか...
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