●危機のときのメッセージは自身の体験によって印象が変わってくる
―― 前回、先生がおっしゃったアンゲラ・メルケル首相のメッセージを読みました。その時の様子も動画で観ました。彼女は、旧東ドイツ出身の博士号を持った学者で、経験も豊富だし、知的トレーニングも積まれています。東西ドイツが分裂していた時代から、ベルリンの壁が崩れ統一を果たすまでの激動の時期を生きてきた人で、その中で体験してきたものから、ちゃんと優先順位をつけていて、それが言葉に表れています。
一方、日本は、国内に良いものがあったとしても、リーダーがそれを本当に知っているのかどうかという点で、私は疑問を持っています。例えば、本当に数千人の保健師さんや保健所の皆さんの頑張りを分かっているのかということです。
小原 スーパーマーケットで働いている方などもそうですね。
―― クラスター班の人たちの中にも、厚生労働省の役人ではなく、ボランティアの学者さんたちもいます。彼らの現場の頑張りについても同様です。
私は東日本大震災の時、宮城県で復興委員をやっていて、現地に入り、数十カ所の被災地を回りしました。そこでは、悲惨さと感動的な光景の両方を見ました。しかし、その後に東京から偉い人がやってくる際には、すでに綺麗に整備されていました。こうしたことからすると、どの場所や場面を見ているか、どの場面で体験しているかによって、印象が決定的に違ってくるものだと思います。
そう考えると、どうしてメッセージが伝わらないのかという点も分かってくるのではないでしょうか。メッセージを発している人が、自分で腹落ち感があって相手に伝えているのと、なんとなく言われたことをかき集めて読んでいるのでは、全く異なります。その点でいえば、メルケル首相のスピーチはすごかった。世界のリーダーのスピーチの中には、たとえその国の言葉が分からなくても、引き込まれるものがあります。その部分がないと、こういうときに人を動かすことは難しいのではないかと思いますが、いかがでしょう。
小原 1929年に世界恐慌が起こりましたが、その後の大不況の中、フランクリン・ルーズベルト(アメリカ第32代大統領)は1933年に「炉辺談話」というラジオ放送によって国民に語りかけました。今のドナルド・トランプ大統領を見ていると、アメリカもずいぶん変わったなという感じがして、すごく...